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契約妻ノアは無双する――その二

ホワイト家でのノアの立て籠もり生活を説明します。物理的に閉ざされた奥様部屋に手を出せる者はいません。部屋の外では様々な事が起きていますが、ノアは一切知りません。

契約妻として領地の長である伯爵家に来たのは、ノアとしてのわたしが十八歳になった時。乃彩としては二十三歳。


一時的に旦那様になった伯爵様はヴァシリウス・ホワイト、二十八歳。名前が超カッコいい。顔は――結婚式の時しか会ったことがないから、良く覚えていない。

確か茶髪巻き毛丸眼鏡、アラサーのおじさんだよ。


十歳違いの結婚なんてこの世界では普通だし、元の世界でもよくあるかな。

実際は五歳違いなんですけどね。


伯爵家ではやっかいなスキルの秘密を漏らすわけにはいかない。この世界は、技術的産業的には近代ヨーロッパ。オール電化なんかを紹介したら社会を混乱させるだけだもの。

このスキルを使うのは、お世話になった男爵家とお店だけでいい。



結婚式が終わり、奥様部屋へ案内され、ヨッコラショと時間をかけてウエディングドレスを脱ぐ。もういらないから、後で売り飛ばそうかしら。


「スキル・オール電化!」


さっそくわたしは作業に取り掛かった。

電化製品が次々に現れ、豪華なLEDシャンデリアが部屋中を照らした。

バスルームの水道は水とお湯が出るようになった。

デスクの上には電気ケトル。

壁には某リゾート地を模した名前のエアコン。窓の外に室外機が出現したはず。だってわたし、暖炉なんて使えないものね。

トイレは自動洗浄トイレにチェンジ。

扉にはセキュリティをかけ、わたしだけに反応するスマートロックにした。

これでわたしの部屋には誰も入れない。


立て籠もり完了。


たちまち奥様部屋が、屋敷のどこよりも居心地の良い場所になったのでした。

どこの発電所から電気を引いているのか、なぜ電源がなくコードレスなのか、誰がお金を払っているのか。

謎は深まるばかり。

一生解決することはないと思うけど。


専属メイドは必要ないと執事さんにはあらかじめ告げてあるので、この部屋へ来る者はいないはず。扉の外が何だか煩いけれど、気にしない。男爵家から持って来た携帯食で夕食終わり。


結婚式で疲れたからもう寝るね。

おやすみ養父母様、かわいい義弟、おじいちゃん。


初夜?

そんなのあるわけないじゃん。

だって契約妻だよ、それに子供はいらないらしいよ。

一度しか会ったことのない男とムニョムニョなんて気持ち悪いから、絶対お断り!


住む所はあるし、お店で稼いでいるから衣食は自分で何とかなるし、移転すればどこへも行けるし、今のところ奥様部屋から屋敷へ出るつもりはない。

それに、どうやら奥様の出番は無さそうだし。


なんたって、

・見かけ上の夫婦

・子供はいらない

・社交はしない

・契約は年一回の更新、更新日は結婚記念日

・契約期間は二年間


だものねー。

自由過ぎて怖いくらい。


明日からまた『魔女の店』へ出勤しなければ。

あそこは首都だから、お食事やお買い物にも困らない。


契約妻一日目、終わり。



結婚式の翌々日くらいかな、扉の外から異臭がした。この屋敷、ちゃんとお掃除してるんだろうか。

奥様部屋は自動掃除機でキレイにしているよ。お洗濯も全自動洗濯機。石鹸は魔女の店の品。従業員のみんなとお店の倉庫でワイワイ作っていて、自慢じゃないけどわりと高品質。


仕方ない、異臭を消す空気清浄機を設置しよう。


ドカン! ジージー……。


そういえば、わたしの食事はどうなっているんだろう。必要ないけれど気になる。

それに、時々扉の外から騒々しい声が聞こえてくる。随分にぎやかなお屋敷だ。

男爵家もみんなが笑いあってにぎやかだったけれど、ここは笑っているというよりも怒っているみたい。

何だか感じ悪い。


煩いから配信音楽を流そう。


こうやって、伯爵家でもなるべく快適な暮らしを心がけた。



ところが、結婚式から五日ほどたった夕方、オール電化部屋から緊急信号が届いた。


(マッズ、侵入者!)


わたしは慌ててお店から奥様部屋に移転した。

そこには窓を破壊して侵入した者がいた。


(泥棒!?)


何とそれは、結婚式の時しか会ったことがない旦那様だったのだ!


「旦那様、わたしの部屋へは入りませんように!」

知られてはいけない物があるので、わたしは慌てて旦那様に忠告した。

「それから、窓の修理は必ずわたしに立ち会わせて下さい、それまでは放っておいて下さい!」

「???」

「さぁ、ここから出て行って下さい!」


秘密が漏れないように、わたしはあたふたしている旦那様をさっさと扉から追い出した。


まさか旦那様が侵入者とは思わなかった。頭がおかしい人だから、要用心だわ。


窓ガラスが無いから寒い。

今冬なんですけど。

仕方なくコタツを呼び出し、丸くなって眠った。


――わたし、虐げられた薄幸令嬢になったのかしら。


翌朝扉の隙間にメモが挟まっていた。

「なになに? 『衣食はどうしている? その前に、ちゃんと生活しているのか?』」

旦那様、わたしの事を一応気にしてるんだ。頭のネジが外れているけど、意外とやっさしー。


『わたし、霞を食べて生きていけるので、気になさらずとも大丈夫です』


念のため、扉と窓には薄く電気牧柵を張り巡らせた。



奥様部屋とお店を移転する毎日。


食事ですか?

朝はカフェモーニング、昼はランチセット、夜はお店近くの定食屋。

奥様部屋にはキッチンがないから、せいぜい電気ケトルでお湯を沸かすくらいだもの。料理なんかできない。


話し相手はお店の従業員と、時々里帰りする男爵家の面々、契約農家さんくらい。

娯楽がほしい。

配信音楽だけではつまらない。


よし、85インチ◯ニーのブラ◯ア設置!

配信で映画を観よう。何がいいかな?

リモコンで日本語入力。

『2001年宇宙のナンチャラ』


あらゆる配信が見放題なのだ。

誰が利用料を払っているのか、電波基地局はどこなのか、未だに謎過ぎる。


それからしばらくして、騒々しかった屋敷が急に静かになった。甲高い女性の声がなくなったのだ。電気牧柵を張り巡らせて以来、奥様部屋に突撃してくる猛者もいない。


ウ~ン、いい傾向。

この屋敷、何かと騒々しかったものね。


騒音消しのための音楽配信はそのまま続けた。

未だに電気料金や配信利用料の請求書は来ない。


さて、わたしのライフクオリティをもう少し上げようかしら。



何も考えずにズルズルと契約妻を続けたら、二年間という期間が迫っているのをウッカリ忘れていた。

アチラさんからも何の連絡もないし、忘れているみたいだから、このまま伯爵家に居座ってもいいのかな。だってお部屋が広いから、電化製品をたくさん置けるんだもの。


それとも独立しようかな。


男爵家の皆さんにも聞いてみよう。


「ノア、伯爵様には大切にしてもらっているの?」

「優しい人だよ(多分)」

「ならいいんだけど、税金を払うためにあなたを嫁に出してしまって、心苦しいの」

「お義母様、気にしないで。もうすぐ契約期間が切れるから、わたしこのまま独立しようかしら?」

「だめよノア、契約が切れたらここへ帰って来るのよ」

「そうだよお義姉様。またみんなで楽しく暮らそうよ」

「いつでも帰ってくればいいさ。ここはノアの家なんだから」

「みんなぁ……グスッ……シャンデリアはまだ光ってる? お湯はまだ出る?」


テリア男爵家って、ポンコツだけど居心地がいいのよね。税金問題は解決したから、贅沢しなければ貴族家としてそれなりに存続できるはず。

ウ~ン、これからどうしようか悩む。

そういえば、旦那様って普段何をしているんだろう。



二年が過ぎ、契約終了日になった。旦那様はどうするのかな?


「契約更新……」


扉の向こうから旦那様の声がした。


「了解!」


オートロックを外し、結婚記念日であり契約更新日にしか開けない扉をギィーッと開けて……。

旦那様が心変わりしないうちにサクッと契約書にサインっと。


サラサラ〜。


男爵家の皆様、わたしはもう少しここに居座ります。

次回からは、発掘馬鹿ヴァシリウスが立て籠もり続ける契約妻に不安を募らせ、ついでにメロメロになっていくお話です。その過程で、奥様部屋の外で起きた出来事が明らかになっていきます。

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異世界でのオール電化 何でも只の生活うらやましい!
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