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【7】オメガ騎士の散歩先



――――あ、そろそろもらいに行くか。


その日の休憩時間、俺は肌をさすりつつ東医務室に顔を出しに行く。主に王族が寝起きする宮のある区画に設置された医務室である。


「なぁ、聞いたか」

「あぁ。聖者さまは最近お加減が悪いらしい」

「それなのに公務までされているんだ」

その道すがら使用人たちのそんな噂話が聞こえてくる。聖者さまってのはシェリルのことだな。聖者と言えども自分の身体の不調をもどうとでも出きるわけではない……か。


「おい」

「……っ!」

使用人たちは俺の姿に気が付いたのか慌てて口を噤む。その原因の運命の番だから……か。別に俺はアイツを運命などと思っていないがシェリルの不調の原因として目を向けられることにはかわりない。しかし鬱陶しいのでカチャリと剣を鳴らせば彼らは慌てて逃げていった。


「臆病ものめ」

何も言ってないのに逃げるとは。あんな取るに足らない連中、相手にするわけないのにな。むしろ王宮で働くには品がなさすぎる。あとでトーマスにチクるか。リュカさまの耳に悪い噂が入っては困る。


「とっとと医務室行こ」

しかし……何だか近衛騎士たちが騒がしいような。まだ王子の専属護衛には話が来ていないと言うことは王族の身を揺るがす事態ではないと思うが。


ひとまず俺は医務室のドアを開いた。


「お、シャロン。いたいた」

そこには俺と同年代で緑髪のオメガの青年がいた。


「あ、ロシェじゃん。どうした?もしかしてリュカさまに何か……」

「大丈夫。今日は安定してるよ」

「良かったぁ。ま、そうじゃなきゃ昼休みに邪魔しに来ないかぁ」

「邪魔しに来たわけじゃ……って診療室で食ってんの?ほかの奴らは……」


「今大急ぎで物資の補充中」

「どう言うことだ?」


「それがさ、何故か在庫が足りないんだよ。誰が大量に使ったのか……使用履歴すらない」

シャロンが引き寄せたのは薬品を管理する端末である。王族も利用する城の医務室だ。管理は徹底しているし、登録してある治療士しか開けないはずだ。


「盗まれたってことか」

「それなら大事だよ」

ほかのやつらが走り回っているのはそのせいもあるかもしれない。昼休みが終わったら俺も近衛騎士団長に召集かけられるかも。城の警備体制にも影響が出るからな。


「けど履歴には不審な点もないし……在庫だけがないし。はぁ……もう舞踏会シーズンなのに」

舞踏会シーズンはいわゆるパーティーと呼ばれる夜会やら昼間の茶会などで来客が多いからな。

それだけ医務室を頼りに来るものも多い。


「こんな状況なら俺も遠慮しておく」

「いや、お前は何を取りに来たんだ」


「にきびの薬。昨日厚揚げチキン食べすぎてお肌がさぁ。俺のお肌も心配してくれるリュカさまが……っ、あうぅっ」

「帰れ」

「ひどっ、それでも王宮の医官かよ」

「野菜ジュースでも飲んどけ」

うーん……やっぱりお肌のためには野菜か。前世で女子がそんなことを言っていたかもしんない。


シャロンとしゃべっていれば不意に診察室のドアがノックされる。


「ロシェ、出て。俺はこの厚揚げチキンを腹にぶちこむっ!」

いやおめーもかよ。


「仕方ねぇなぁ。はいはーい、どうぞ~~」

診察室のドアを開けて、そしてピタリと固まった。相手も目をまんまるくしている。


「お下がりください、シェリルさま!」

そして俺の顔をみるなり目をまんまるくするシェリルを庇ったのは侍女か。シェリルのお付きってのもあるし、多分ベータだろうな。


「別にそんな顔しなくても、取って食ったりはしねぇよ」

「ですがあなたは……っ」


「ここで食ってかかっても構わんが、後ろの青い顔のやつは放っておくのか?」

その瞬間侍女がハッとする。一瞬驚いた顔を見せたシェリルだが、今は顔色が悪そうに俯いている。


「患者さん?わっ、聖者さまじゃん。入って入って~~」

シャロンだけが能天気だが……職業上その肝の据わりかたも重要なのかもしれないなぁ。




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