【6】近衛騎士の仕事は多岐に渡る
――――王宮と言うのは普段の王族のお世話から護衛、執務の補佐など役割は様々だが時には社交の補佐も含まれる。
「準備は万端なようですね、リュカさま」
「うん!変じゃないかな?」
社交用の衣装に身を包んだリュカさまは相変わらず可愛い。でもリュカさまだって男の子だ。あまり可愛いを連呼すればむくれてしまうだろう。
「ご立派ですよ」
「えへへ」
あーん、もう、かーわーいーいー!
「ロシェ、注意事項を」
そんな俺を視線で制する第3王子宮の侍従長トーマス。うん十と王宮に仕えるベテランだ。だが知ってるんだかんな!?お前もリュカさまに萌え萌えなことを!
「はい、トーマスさん」
リュカさまは幼い頃は熱でなかなか社交の場に出席できなかったからなぁ。今一度復習である。
「リュカさま。パーティーホールでは常に我々近衛騎士が護衛いたします。むげに撒いたりだとかかくれんぼをしたりとかしてはいけませんよ」
「うん!」
こちらは警備上の注意点だ。俺としては可愛いからやってくれても必ず秒で見付ける自信がある……が侍従長と近衛騎士団長に怒られる気しかしないのでやめておく。
「それから来賓から食べ物飲み物やもらいものをされた時は必ず供のものが受け取り、食べ物飲み物は毒味いたします」
「食べてもロシェたちは大丈夫?」
くぅーんっ!俺たちのことを心配してくれるリュカさまサイコー!
「使うのは探知魔法。しかし念のため口に含んで確かめます。異常があれば魔法の時点でやめますので大丈夫です」
「それなら……っ」
リュカさまがホッとする。
「あと、お酒は出されても我々供のものが代わりますので無理に飲むことはありません」
まだ子どもだかんなぁ。出してくる大人の方がどうかしてるが。
そうしてリュカさまに注意事項を話していれば、ふとトーマスが来客を知らせに来る。
王宮のパーティー前に何だろうか。しかも俺指名とは。まさか……いやいやパーティー前だぞ?普通婚約者の様子を確かめるだろう。
控え室を出れば、まさかと思っていたアーサーがいた。
「お前こんなところで何してんの」
「ロシェに会いたかった。パーティーでは色々な令息令嬢が俺を目当てにやって来る」
婚約者がいるのに何をやってんだか。いや……元々はアーサーがちゃんと婚約者らしいことをしておらず、俺を番と呼ぶことで公爵令息シェリルがナメられている……が正しいな。
「お前はバカか。王宮のパーティーだ。ホーリーベル公爵夫妻も来るんだぞ。その手前婚約者のエスコートもしなければ公爵夫妻はどう思う」
さらにはこんなところにまでやって来た。
「だが俺がエスコートをしたところで……」
「また諦めモードか。お前の悪い癖だぞ。お前が横にいることで、少なくとも公爵令息さまはいわれのない陰口から守られる」
社交の場ではさまざまな噂や憶測が巡るもの。しかしながら隣にアーサーがいれば下手に陰口を叩こうとするものはいない。少なくともシェリルの耳には入りにくくなる。
「お前がエスコートすることに意味があるんだ。本来の目的を見誤るな」
「……っ。分かった」
全く、そう言うところはやけに素直なんだから。王子教育を受けてきたとはいえ前世で言えば高校生。まだまだ心もとないが、俺も年上としてちゃんと導いてやんないとな。
アーサーが来た道を戻っていく。その瞬間柱の向こうに何かが見えた気がした。あの赤紫の髪は……まさかな。