【44】銀竜
一面が銀世界の山の上に確かに感じるのはアイツがいると言う事実。この項は確実にそれを告げてくる。
「あそこだ、リュヤー」
『ああ』
リュヤーが下降すればそれはまるで神隠しに誘うかのように吹雪の中に突入し、猛烈な吹雪の渦を抜ければそこは氷河の洞窟の入り口のようだ。
しかし上は吹雪いていたと言うのに俺たちの真上にはくもひとつない青空が広がる。
まさに神業ってか。
竜人の姿になったリュヤーもやれやれと見上げている。さて……アーサーはと思っていれば、その場にリュヤーの本体よりも大きな銀色の竜が降りてくる。
『ようやっと来たか、待ちくたびれたぞ。セイレンの孫よ』
「うるせぇてめぇがこんなところにアーサーを拐うからだろ。とっととアーサーを出しやがれ」
『……口の悪いところもオメガのくせに生意気なところもセイレンによく似ている』
「オメガのくせにって何だよ。アルファが何様だ」
『人間がアルファと呼ぶ竜のオスこそがこの世の最上』
「お前っ」
『やってみるか?できるものならな』
そう言って銀竜がしっぽで放り投げた姿にハッとする。身体を氷のイバラのようなもので拘束されたアーサーだった。
「ロシェ!」
アーサーがこちらに気が付く。
「俺のことはいい!リュヤー殿と早く逃げ……っ」
その時銀竜がしっぽで乱暴にアーサーを振り払う。
「うぐぁっ」
「アーサー!?」
それでも何とか無事なのはアイツの竜の血の濃さ故か。
思えば銀竜は辺境の民を人質にしてアーサーを拐ったのだ。そしてそのアーサーすら人質とした。
「何が望みだ、銀竜」
『デゼルトでの一件……竜の血の力を人間になど分け与えることは何と愚かなことか。かつてセイレンの血族は人間と交わりその力を子々孫々と継承してしまった。それゆえに起こった悲劇。だからこそセイレンの力を受け継いだお前の子孫もまた、やがて同じことを繰り返すであろう。人間とはどうしてこうも愚かなものか』
「勝手に決めるなよ!それにデゼルトの悲劇は竜の力を受け継いだからじゃない。それを正しいことに使わなかったからだ!」
まさに目の前の竜のようにアルファの男が最上とばかりに優遇した。オメガは彼らのアルファと言う種を繋ぐ道具としてしか考えなかった。
「けど今は違う。もう一度やり直そうとしている」
今度は力は失ってしまったが、正しく生きようとしている。国を建て直そうとしている。
「だからなんだ、お前たちの問題は解決していない。息子は愚かにも人間と番った」
どこが愚かなことだ。平民の身でオメガとして生きていくことは難しかろうと父さんは母さんを治療魔法士として雇った。共に辺境で医療に携わりそうした中で結ばれた2人だ。どこが愚かだ。ばあちゃんのことを知った父さんは度肝を抜かしたが……それでも2人が結ばれたことはばあちゃんは祝福していた。俺も、弟も。男爵領や辺境のみんなが。
『だがお前はまだ番ではない』
「それが何だ」
『お前の力が悪用されぬよう、番うのだ。竜と番うのならば人間にその力が渡ることはない。ゆえにリュヤーと共に招いた。それが竜の未来のため』
ばあちゃんが来られないのなら、ここに俺を連れてくるなんてリュヤーしかいない。そのつもりだったのだ。銀竜は息子の気も知らず、息子が誰を見て育ったかも知らず。俺の意思もない。
「アーサーや辺境の民を人質にオメガをもののように扱う……」
それはアスマがヤタにやったことと何が違う。
「竜も人間も関係ない!お前は……お前も竜の力を利用してきたかつてのデゼルトの王族たちと変わらないだろ!」
『ぐぬぅ……セイレンの孫だからと丁寧に迎え入れてやったと言うのに、何と言う口の利き方だ!少し痛い目を見ねば分からぬようだ!お前たちの言うアルファが、竜の最上位がどういうものなのか……その身で味わうがいい!』
銀竜が怒りで目の色を赤に変え、俺に襲いかかってくる……!




