【22】第2王子洗脳未遂
――――公爵家の騒動が落ち着き、辺境へ向かうシェリルたちを見送って暫くのことである。
「ロシェ、あのね、アーサー兄さまのために外国のお菓子を作ってみたの!侍従のイルがね、教えてくれたの!」
ぐほぁっ。りゅ……りゅりゅりゅリュカさまの手作りお菓子だと……!?
そして侍従イルとは先の一件で保護したオメガのひとりだ。公爵邸の一件では一番危なかったのにずいぶんと元気になったなぁ。しみじみ。
だが……。
「トーマス、聞いてない!」
侍従長のトーマスに抗議してくれよう! リュカさまの手作りお菓子手作りお菓子手作りお菓子ぃ可愛すぎるじゃないかっ!
「いえ、あなたに教えると終始うるさいので。あと私は先ほど味見させていただきました。美味しゅうございましたよ」
抜け駆けかよ、トーマスめ。
「しかし侍女たちとも仲が良く、覚えも早い。良き人材ですね」
それは何よりだが。平民出身者ならいちから覚えるのは大変だろうに。
「さらにここの侍女たちはオメガのリュカさまにお仕えしているからオメガへの偏見もないですしね」
確かになぁ。因みに他は王妃さまや王太子妃さまのもとだろうな。中には文官を志したものもいるようで、将来が楽しみだ。
「ほら、ロシェにも!あーん!」
ああんっ!リュカさまかっわいいいぃっ!
あーんしてくれるリュカさまのお菓子に迷わず飛び付く。
「ロシェ、美味しい?」
「んんっ、もっちろんですリュカさま!」
あーん、リュカさまが全部かーわーいーいーっ!
「リュカさまに萌えているところ悪いが、第2王子殿下が到着された」
とそこへエレナさんがやってくる。くぅっ!いいところだったのにぃっ!
「アーサー兄さま!」
けれどリュカさまが喜んでいるので仕方がない、迎えに行こう。
「ではご案内してまいります、我が王子」
「ひゃあぁっ」
リュカさまったら頬を赤らめて可愛すぎるっ!
「ロシェ、お前は全世界のオメガを虜にする気かそうなのか?」
「……何言ってんのエレナさん。俺はリュカさまの虜だっ!」
「それは私もだから否定しない」
だよな、それがリュカさまにお仕えする俺たちのスローガンだ。リュカさまは侍女たちとお茶の準備の最終確認。俺たちはアーサーを迎えに行く。
迎えに行けば、何故かアーサーが思案している。
「おい、アーサー。何を思い悩んでいるかは知らんがリュカさまの前でその顔見せたらお前に明日は来ない」
「こ……恐いことを言うのはっ。と言うかロシェ、あなたのことですから」
「俺に?何だ?」
シェリルとは婚約を解消したものの俺はアーサーの番になる気はない。まだまだリュカさま一筋。もう暫くコイツはボッチで反省タイムである。
「……きっと俺のことなどそっちのけでリュカが可愛いと惚気ていたに決まっています」
アーサーの言葉に周りの騎士、使用人たちがぶっと吹き出す。
「当たり前だろう」
「でしょうね」
「だがお前……リュカさまは可愛い。まさかその絶対的ことわりに異を呈する気か。リュカさまは可愛い。リュカさまは可愛い。リュカさまは可愛い」
「いや……そんなことは……リュカハカワイイ……」
「ならよし。お前を案内してやろう」
「いや、ロシェは団長が呼んでるから」
とコンラートさん。え……?何で……?
「殿下は私が案内する」
「そんなぁエレナさんっ!」
「ごねない!団長に王子洗脳容疑についても報告するぞ!」
「ぐうぅっ!違う、これは布教なんだぁっ!!」
しかし抵抗すればリュカさまがアーサーが来ないことを心配してしまう。俺は素直に団長室に向かうことになった。
そして団長室に向かえば意外な人物がいた。
「はえ?騎士団長じゃん」
それは屈指の叩き上げで有名な騎士団長ロベルト・チェリクだった。




