【21】それぞれの道
――――まさか王妃さまがそこまで手を回していたとは。
「ま、うちの母さんなら安心して預けられるけど……王都の公爵邸はどうなる?」
さすがに領地の方は国が代官を寄越すだろうが、王都の使用人たちは全員邸を去ることになったのだ。
「あの邸は……国の調査が全て終わったら、取り壊す予定です」
「……いいのか?」
「ええ。元よりあそこは……悲しいことが多すぎました。それに邸を取り壊したら建てたいものもあるんです」
「……建てる?」
「ええ。あの邸の地下で見付かった骸。昔、ぼくはボロボロの服を着て生気のないオメガたちを見ました。当時の侍女に尋ねてみたものの、彼女は二度とそのことを口にしてはいけないといい、以来彼女の姿を見たことはありません」
シェリルに見せてしまったことで始末されてしまったか。
「彼らを弔ってあげたいから……あそこには遺骨の変換先が不明なオメガたちのために碑を建てようと思っています。それでも……出身地が分かっても還る先がないものばかりで。恐らくは平民……外国の血の入ったものまでいたので。同じオメガとして、公爵家のものとして」
外国からも買っていたのか。えげつないな。
「そうしてやってくれ。あと……辺境でも顔を見せてやってくれ。母さんなら案内してくれるよ」
「……それはっ」
シェリルも何かを悟ったようだ。
「見てきます。王都では学べないこと、知れないこと。オメガのこともその歴史も。ロシェが辺境で成し遂げたこと」
俺のことは……少し気恥ずかしいが。きっとそれらはシェリルをさらに成長させてくれそうだ。
「そうね。それからハリカちゃんも一緒に辺境に行くのよね」
「はい、王妃さま。私も母の分までシェリルさまにお仕えしたいのです」
公爵家でひとりだけ残った彼女は……もしかしたらかつてのシェリルの侍女の……。そうか……あの時彼女を『守る』選択肢を選んで良かった。彼女に何としても生き延びシェリルの側にいるようにと告げたことは間違いではなかったんだな。
「それから……生き延びたオメガたちの何人かも治療士として辺境に向かうわ。治療士になった後はシャロンのように王都で宮医になるのも歓迎するし、辺境にとどまることも彼らの自由よ」
神殿ではなく辺境にね。王都の神殿が悔しがりそうだが……しかし必要な技能は身に付く。シャロンがそうであるようにな。
「残った子たちは侍従や文官として雇うことにしたの」
「……まさかそうなるとは思わなかった」
「そうね。他の職業を斡旋することも考えたのだかけど、今回の一件でオメガの騎士が必要であることをみな認識したはずよ。オメガはただの弱者でいることなんてない。貴族のオメガだけが政略の材料となる……それだけで終わらせることなんてないわ。オメガにはオメガにしか分からないことがある。だからこそ、必要よ」
王族にもオメガが多い。圧倒的にオメガの妃が多くなるから。
「誰もがロシェのように騎士になれるわけじゃないから、素質をみながらね。神殿の保護施設から戻ったら早速研修に入る予定よ」
「それなら安心だ。けど……彼らは故郷には……」
「現実的ではないわね。中にはお金のために家族や故郷から売られた子たちもいる。さらには戻る家すらない子や外国から売られた子」
戻る家すら……口封じか。そして相変わらず外国からも拐ってきていたと。
「だからみんな治療士や城仕えを希望したのよ」
「そっか……みんな納得してのことなら俺も安心だ」
「ふぅん?」
すると王妃さまは俺に試すような目を向ける。
「……な、何か?」
「自分がいかにモテるか自覚してないようね?」
「ですね」
王妃さまの言葉にシェリルが頷きハリカもにこりと微笑む。
「本当に罪作りだ」
アーサー、お前まで。アーサーはちょっとムカついたのでペシャリとひっぱたいておいた。




