【2】最強のオメガ騎士
――――アーサー殿下との初めての出会いから早12年。俺は19歳になった。あの出会いから俺は辺境で己を鍛え上げ、晴れて17歳で近衛騎士に昇り詰めた。
しかしオメガが近衛騎士になるなど前代未聞。こうして近衛騎士にまでなれたのは辺境でお世話になった辺境伯のお陰である。
「ではリュカさま。今日はオメガバースのお勉強です」
もちろん近衛騎士になったからと言ってアーサー殿下付きになることはない。ちゃんと辺境伯が手を回してくれたのだ。
「うん!ぼくもオメガとしてしっかり勉強します!」
あー……可愛い。これぞテンプレのオメガっ子。華奢で可愛らしい顔立ち。ドラッヘン王国第3王子リュカさま。銀髪に銀の竜角、しっぽ。瞳は銀色。背中にちょこんと生える小さな翼とか可愛すぎるだろ。背中に大きな翼を収納するアーサー殿下ではこうはいかない。
「あのね、ぼくも将来はロシェみたいな強くてカッコいいオメガになりたいんだ!」
あうぅっ!かっわいいいぃっ!ほんとねぇ、年下の子ってかわいい!うちの弟と同い年なところもポイントが高い。同じオメガだからと推してくれた王妃さまにも感謝である。
「どうしたらロシェみたいに強くなれるの?」
「そうですね。そのためにはまずはオメガの習性について学ぶ必要があります」
「うん!」
「オメガは生態系の中では最も立場が弱い。その理由が分かりますか?」
「えと……発情期ですか?」
「その通り。オメガには3ヶ月に一度発情期と言うものが来て、アルファをフェロモンで誘ってしまうんです」
「ぼくからも出てる?」
「アルファからするとオメガではあるとは分かるそうです。けれど発情期のように誘惑するフェロモンではありません。また誘惑するフェロモンを出すようになるには最低でも15、6に至る必要があります」
「だからロシェはもう発情期が来てるんだね」
「ええ」
「けど、ロシェはいつもリュカといてくれるよ?」
「俺は抑制剤を飲んでいますから。オメガの発情期は抑制剤である程度予防と対策ができます。だけどどうしても発情期が抑えきれない時も来ます」
「その時はどうすればいい?」
「……俺は……己の中にある野生の本能でアルファどもを威圧しぶんなぐります。それで収まります」
何故か俺は出来た。辺境でも辺境伯に近衛騎士に推薦する及第点をもらえたのはそこが大きい。
「はわわっ、ぼくにできるかなっ」
いや、リュカさまにやらせたら確実に王妃さまからお尻ペンペンの刑に処される!
「いいえ、リュカさまはこれからオメガの本能に目覚め慣れていかなくてはなりません。そのためには不調を感じたらすぐに俺たち近衛騎士に。宮廷医のもとへお連れします」
「ぼくじゃまだ、ロシェみたいに戦えない?」
「戦うのは何も剣を持つだけではないですよ。お勉強もそのひとつ。リュカさまがお勉強を頑張ったら俺たち近衛騎士も頑張ろうと思えます」
「……っ!うんっ、ぼく、お勉強頑張る!」
「ええ。いつでも俺たちがついていますから」
そうリュカさまの頭を優しく撫でて上げれば、はにゃりと微笑むさまがマジ天使である。この職場、最っ高だな。
――――そんな時だった。
「ロシェ、済まないが第2王子殿下がお呼びだ」
先輩近衛騎士が呼びに来る。金髪にエメラルドグリーンの瞳を持ち、この国では珍しいエルフの混血、エレナ・クローバー。
「アーサーお兄さまが来られたの?でも、きっとぼくじゃなくてロシェに……」
リュカさまが一瞬驚いて頬を染めたがすぐに元気をなくしてしまう。
子どもと言うのは敏感だし王宮とは噂や策謀が飛び交う。リュカさまはそんな場所で生まれ育ったが故に察しているのだ。
「何を仰っておいでで?俺はリュカさまの騎士です。王族の方は護衛対象ですが俺の主はリュカさま。アーサー殿下も分かっていらっしゃいます」
本音を言えば分かってねぇだろうな、あの竜突猛進仏頂面王子。しかさリュカさまの前で言うわけにもいくまい。
「……ロシェ」
こんな可愛いリュカさまを悲しませるわけには行かないのだ。
「アーサー殿下は弟御に帰還の挨拶に参られたのですよ」
「……うん」
「リュカさまの近衛騎士として出迎えをして参ります。リュカさまはどうかお茶の準備をしてお待ちください」
「……うん!」
そうリュカさまが可愛らしく頷けば、心を同じくする同志の侍女や侍従たちがリュカさまとお茶の準備を始める。
「じゃ……ちょっくら行って来ましょう」
リュカさまに聞こえぬよう、見えぬよう、エレナさんに合図する。
「……殺気は隠せ、一応相手は王子だぞ」