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【19】憧憬のオメガ



――――地上に戻れば、既に牢の中のアルファたちも外に出されていた。もちろん騎士たちの本気の手刀で気絶している。しかしラットを起こしているのならばそれが一番最適である。


「オメガたちは全員保護できたようだな」

「ええ……その、神殿からも神官たちが来てくださいまして」

騎士団のリーダーが教えてくれたのは意外な事実だった。

「神官たちが……?」

「彼らもオメガだそうで……神殿の反対を押し切って来てくださったそうです。危ない状況だったオメガも意識を取り戻しました。あなたの活躍と言うのはいつも多くのものを動かすのですよ」

「……」

そう……なのか。俺はただ必死で走り回っていただけだというのに。それを見てくれるひとは王妃さましかり、辺境伯しかり……それ以外にも。


「アルファたちを護送する段階では何かあってはいけませんからオメガたちと共に一足先に城へ。あちらでも治療士たちが用意をしてくれていたようです」

ああ、シャロンたちだな。


「……それから、奥のことですが」

リーダーも先に地上へと上がった騎士たちから報告を受けたんだな。


「これから運び出します。全員」

「……俺も手伝う」

「ええ」

その後俺たちは神妙な面持ちの騎士たちと共に骸を運び出す。せめて身元……故郷くらいは明かしてやりたいものだな……。


※※※


ここは王都の神殿の一郭だが、普通と違うのは発情期のオメガがアルファを避けるために使われる保護施設だと言う点だ。


「だいぶ顔色も良くなったようだ」

神殿の神官たちの問診に付き合いつつも微笑を漏らす。神官たちもオメガやベータが多い。中には公爵家の一件で駆け付けてくれたものもおり、城で簡単な措置を終えたオメガたちはこの神殿の保護施設で聖騎士たちに守られながら養生している。


「しかし発情期が明ければ、彼らも……」

オメガの神官が不安そうに漏らす。神官として神殿にいるとしても神官の素質がなければ難しい。発情期が明ければほかにも保護施設を必要とするオメガのために部屋を空けなければならないのだ。

そうして俺たちオメガは互いに譲り合い助け合い生きていく。


「それなら、多分王妃さまが何とかしてくれる」

彼らもこの国に暮らすのなら国の民だ。それを守るのは国母である王妃さまの務め。あの方はそう言う方だ。


「それなら……っ!その、私は治癒魔法の素質があったので神官になりましたが……ロシェさんに憧れて前向きに生きられるオメガもたくさんいるんですよ」

「……」

「だからロシェさんはこれからも私たちの憧れのオメガの騎士でいてください」

神官は俺の手を包み込み、そうにこりと微笑む。


そうこうしていれば、ほかの神官が呼びに来る。


「あの、ロシェさま。お客さまが……」

何だかおどおどしている神官の様子に誰が来たのか何となく分かってしまったのだが。


※※※


保護施設から出、神殿の本部に向かえば俺を待つアルファの王子がいた。


「こんなところまで何の用だよ」

ちゃんとルールを守ってここで待っていたのは褒めてやるが。


「その、そろそろ発情期は終わったかなと」

それならとっくに……ここにいたのは保護したオメガたちの経過観察もある。


「シェリルも発情期が明け、だいぶ持ち直したようです。それで……母上にもロシェを呼んでくるようにと」

今後のシェリルのこと、それから保護したオメガたちのこと、名もなきオメガたちのこと……。


「分かった。行こう」

「俺が飛んで運びます?」

「バカ。王子に抱っこされる近衛騎士なんてカッコ悪い。却下!」

「そんなぁ……」

妙にガックリするアーサー。しかしすぐに『ロシェらしい』と苦笑する。だがそれも平穏を取り戻した証なのかもな。

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