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【17】シェリル



――――分厚い扉。しかし扉の外まで漏れ出るそれは扉を開けば濃厚に押し寄せる。

その先のベッドには頬を赤くしながら苦しむシェリルがいる。

「シェリル!」

「おい、無事か!」

アーサーと2人で急いでベッドに駆け寄る。


もうどのくらいこんな状態で放置されたんだ。シェリルがまだ意識を保っているのはその頭に持つ竜の証のお陰か。


「アー……さ、でんか……ろ、しぇ……」

「もうしゃべるな!アーサー!急いでシェリルを離宮へ飛べ!宮医たちを待機させてある!」

「分かった、ロシェ!」

アーサーがシェリルを抱き抱えテラスへと出る。


「でん……、か……うなじ……かん……で」

シェリルのか細い声が響く。オメガの本能がそれを求めているのだ。


「そなたは本当にそれを望んでいるのか」

「……っ」

バサリと広がる竜の翼の音に呑み込まれ、シェリルの答えはかき消えた。

上空に浮上すれば、シェリルを抱え飛び去るアーサーの姿は一瞬で見えなくなる。


「さて……俺は」

まだやることがある。


急ぎ公爵邸の正面玄関口に向かえば、先ほどの黒服の隊員が待機していた。それから……騎士団もいるのか。ま、管轄で言えば王都のいざこざは騎士団だもんな。


「シェリルはアーサーが先に離宮へ搬送した。あとは……この邸は地下室はあるか」

「ええ。反抗したアルファたちは地下へ。そして嫡男も」

そういやシェリルはアルファの弟がいると言っていたな。あの女、自分の旦那も犠牲にしておいて自分のアルファの嫡男だけはしれっと守るとは。


「地下のアルファたちはまだ解放するな。地上で倒れているアルファたちは捕縛、公爵夫妻は拘束してくれ」

「……それは承知したが……アンタは大丈夫なのか」

騎士団のリーダー格が問う。ここへ厳選して連れてきたベータの騎士の中でも一際実力がありそうだ。


「さっき暴れたから平気。もう熱も冷めた」

「グレイス家の狂犬は相変わらずだ」

「御託はいい。あと何人かは地下に来てくれ。恐らく発情を誘発されたオメガたちもいる」

まだ助かるだろうか。恐らく竜の血も流れていない人間のオメガたちだろう。だけど……それでも強く生きるオメガをひとり知ってるからな。


「あぁ、では二手に分かれる。お前たちはグレイスと共に地下へ。あとは私に続いてくれ」


俺たちはそれぞれの場所へと向かう。俺は騎士団の騎士たちを引き連れ、地下牢へと向かう。そこにはオメガの発情でラットで苦しむアルファたちがいる。


「……すまんがまだ出してやれる状況じゃない」

それからひとりで牢に入れられている少年を見付ける。まだ10かそこら。だからこそラットを起こさずに済んだんだろうが。


こんなところにいるアルファの子どもなんてひとりしかいない。


「おい、お前ら!騎士ども!ぼくをここから出せ!ぼくはホーリーベル公爵令息だぞ!」

威勢よく響く声は決して歓迎されるものじゃない。周囲がこんな状況で、明らかな異常事態。子どもほどそう言ったものには敏感なものだ。


「お前……騎士のくせにオメガなのか?」

そして彼は俺の首もとにチョーカーがあることに気が付いたらしい。

「おい、オメガ!ぼくはアルファでお前らオメガを生かしてやってる上位種だぞ!早くぼくをここから出せ!卑しいオメガが!」

その言葉にベータの騎士たちですら不快感をあらわにする。


「お前……」

親の教育が至極行き届いているようで。


「それを、お前の兄ちゃんにも言ったのか」

ガシンと牢の格子を掴めば、その瞬間少年が『ひっ』と喉を鳴らしたのが分かる。


「だ……だってぼくは……アルファ……特別……あんなやつ、オメガなんて……兄でもなんでもない!」

シェリルの弟ならば特別に優しくしてやろうとも思ったが、なしだな。シェリルはこんな地獄の中で育ったのだ。


「ああ、そうかよ。悪いがな、俺はシェリルの味方なんでな。お前は絶対に助けてやらねぇよ」

凄みを利かせ、ニィと笑めば少年はがくがくと震えて尻餅をつく。


「さて、コイツを連行するのは最後だ」

むしろラットを起こすアルファたちを先に治療せねばならないからな。

優先順位的にもおかしくはない。子どもだと特別扱いしてやる理由もない。


「奥に進むぞ」

「あの……ロシェさん。念のため聞いておきますが発情期、本当におさまってますよね?」

うーん……もしかしたらちょっと残っているかもしれないな……?


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