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【16】オメガの狂戦士


――――不快な誘発剤の匂いが充満する。強制的に発情を促す代物がオメガにとって毒ではないはずはない。ひとは毒に対し何らかの抵抗本能を持つものだ。


「さすがにこの数相手ではアーサー王子……あなたも手が出ないわね!さぁ……目の前で運命の番が弄ばれるのを見ているがいい!そして諦めて……シェリルの項を噛めば……私は、今度こそ!」

夫人が愉悦の笑みを浮かべながらほくそ笑む。


「何を言っているんだ!そんなことはさせないし、お前は罪人として捕らえられるだけ!それにシェリルは……俺の番にはさせない」

「な……ぁ……やっぱり、やっぱりそこのオメガを選ぶの!?どいつもこいつも……陛下だって……私を選ばなかった……」

それがなによりも彼女を病ませた。しかしながら……。


「その理由が分からねぇからだろ!」

夫人の前に立ちはだかれば、夫人がビクンと痙攣する。


「なんで……発情期(ヒート)を……起こして……立って……いられるの?」

震えながら夫人が声を絞り出す。

そして絶対的上位種であるはずのアルファと言う種を狩る未知の上位種に、助けを求めるように周囲を見る。しかし映ったのは自分と同じ恐怖にひきつる顔。


「アンタ……本当に……オメガ?」

「そうだな……俺はオメガだ。お前たちは忘れてしまったか」

お前も王家の……竜の血を引くと言うのに。


「お前の浴びせた誘発剤のお陰でちょうど滾ってきたところだ」

「た……滾る?何で……発情期なはずなのに!」


「そうだな……これは発情期だ。紛れもない、発情期。久々にこんなにも高い濃度の誘発剤だ。こんな濃度のものをシェリルにも浴びせたのか?」


「だって……だってアンタが悪いのよ!」

夫人は震えながらアーサーを指差す。

「シェリルに……オメガに発情すらしないお前がそもそもの……っ」


「発情ならしている。今……ロシェに」

「……お前な」

普通のアルファなら頬をひきつらせながらビビるんだが……?

「余所見すんなら今ここでぶん殴る」

発情アルファがまたひとり増えられたら迷惑だ。


「問題ない。ロシェ。あなたが魅力的に映るのは確かだが、俺はやらないといけないことがある」

煩悩を振り払うかのごとく、アーサーは脅えるアルファたちに襲い掛かる。


「ふん……そうだな……まずはお前らぁっ!全員気絶してもらおうかっ!」

このままにしておいてもシェリルが危険である。ならばこの拳で昏倒させるのが一番である。


アーサーと共にアルファたちを昏倒させていく。


「……公爵、アンタにも息子に対する愛情は消えてしまったのか?」

それともなかったのか。

最後に残ったアルファの男・公爵に問う。


「ひ……ひいぃっ」

アルファの発情と呼ばれるラット、息子に対して発情したせめてもの罪悪感、俺と言うオメガに対する恐怖……。

もう公爵はまともに受け答えもできない。


「シェリルのこと……申し訳なく思います。でも、だからこそ……今だけはシェリルを守るために」

「……っ」

公爵は一瞬アーサーをしっかりと見たように思える。そしてアーサーの手刀に昏倒すればどうしてか一瞬安堵の表情を見せた気がした。


「ど……どうして……どうしてどうして!私じゃないの!私の思い通りにならないの!私は……」

ふと、ひとり取り残されたままの夫人がよろよろとこちらに向かってくる。


「お前が王妃になれなかったのは我が子に誘発剤なんぞを盛る卑屈な性質だ。王妃は国母。国民の母となるべき存在が、我が子である国民に毒を盛るなんて所業、許されるはずねえだろ!」

「……お……お前はどこまで」

今の発言はどう言うことだ?そうか……混ざりあっているのはそう言うことか。


「続きは牢屋で聞いてやる」

「……うっ」

その瞬間、夫人の腹部に拳を叩き込む。コイツにはこれくらいの拳じゃ足りねぇだろうが……しかし罰を与えるのは俺の役目じゃない。


「さて、アーサー。急ぐぞ」

「あぁ、ロシェ!」

俺たちはその先の扉を開いた。






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