【10】オメガの予感
――――南医務室に物資を補充した俺は真っ先にパーティー会場へと向かう。
リュカさまは大丈夫だろうか?いや、エレナさんたちがいるのだから心配いらないよな。
「お待たせ」
「うん、ロシェ!」
王族用の席着していたリュカさまが可愛らしく微笑んでくれる。あーん、可愛いっ!
「こら、集中」
うげっ。アーサーの後ろに控えていたコンラートさんに叱られる。
「アーサー殿下もしっかりと務めを果たされている」
「それはなにより」
コンラートさんから告げられた通り、アーサーの隣にはちゃんとシェリルが着席している。
当のシェリルの両親……公爵夫妻はと言うと……2人のことを怪訝な表情で眺めている。
アーサーがシェリルにしっかりと婚約者の務めを果たさなかった皺寄せは確実に来ていると言うことか。
そして一瞬シェリルが俺を見た気がする。睨むような目ではない。ここがパーティー会場だからかリュカさまもいるからか。アーサーは出席客の対応中。シェリルもすぐに対応に戻る。
「王太子夫夫と国王夫夫は来客対応中」
エレナさんがこそっと教えてくれる。
それで年長者のアーサーが俺を見たい欲を抑え、いつにもましてしっかりと対応をしているわけだな。
さすがにこの場で客の対応をリュカさまにやらせてたらぶっ飛ばすが。
「リュカさま、出席客との応対はいかがでしたか?」
「うんっ!トーマスに教えてもらった通り、がんばったよ!」
「ええ、とてもご立派でしたよ」
エレナさんも褒めてくれる。リュカさまが嬉しそうに笑むのでものすごくなでなでしたいが……今はコンラートさんの目が光っているのでよしておこう。
「ではその調子でパーティーを乗り切りましょう。何かあれば俺もサポートいたします」
「分かった!ロシェ、ぼくがんばるね!」
ぎゃんかわである。さすがは俺のリュカさまサイコーだ。
エレナもグッドサインを見せてくる。
「私でナメられた時はよろしく」
と付け加えてきたんだが。いや、俺だって単なる男爵令息。
しかしながらリュカさまのためなら発情期ブーストも辞さない!あー……でもさすがにリュカさまやほかのオメガもいるからあの実は持ち込めないか。
そしてリュカさまは侍従長に教えられた通りとっても可愛らしく挨拶する。
「オニキス伯爵、どうぞ楽しんでいってください!」
「ありがとうございます、リュカ殿下」
エレナさんがしっかりと貴族名鑑を暗記しているのでリュカさまに名前や家格を伝え、リュカさまが答えを返す流れ。
リュカさまの可愛さにみなメロメロなのが分かる。
――――隣のピリピリとした空気の中での挨拶の後だからだろうか……。
しかしながらパーティーはつつがなく進んでいく。俺たちはリュカさまの可愛さに癒されながら時折リュカさまの護衛騎士が交替でリュカさまに食べられそうな料理や飲み物を運びつつ、リュカさまも挨拶に来る貴族たちを天使の微笑みでメロメロにしている。
――――そんな時だった。ツンと鼻をかすめるものがある。何だ……?確かこれって……ハッとして隣のアーサーとシェリルを見れば、貴族と思われる男がシェリルに飲み物を勧めていた。
あれは……まさか。
「ロッド子爵。ホーリーベル公爵家筋だ」
とエレナさんが素早く教えてくれる。
その子爵が、何故。




