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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【冒険商人 カルマ・ノーディ】  第五巻

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その20 別れの時とことの終わり




 カルマたちも想定外の儲けがあった。龍鱗の穂先をそのままカースにプレゼントしても差し支えのない程であった。


「ほな、ウチはエマの様子を見に行かんとな」

「商品の仕入れはできていないし、僕らは大回りに仕入れをしながら行商を続けるつもりだ。可能な限りこちらにもまた顔を出すつもりだよ」

「…………なぜじゃ?」


 別れの時が近付いていた。

 村人たちを埋葬し、もはやゴーレムしか残らないこの広く静かな遺跡に、姫君はただ一人残ることになる。


 であるのならば、カルマにできるのは彼女がさみしくないように、可能な限り何度も顔を見せることだ。

 この村に残ることは難しいが、それくらいならばできるだろう。


「こんな淋しい場所にどんな用事が?」

「え……それは、ええとお姫様が……」


 心配だとか言ったらプライドを傷つけそうで口ごもるカルマ。


「姫君、何かご入用のものがあれば次までに調達して来ますよ」

「?」


 なので代わりにメリルが尋ねた。

 衣類も装飾品も、黒革の眼帯も身に着けて、姫の姿は完全に貴人だ。この虚ろな遺跡で悠久の時を備え続ける、悲しく淋しい無人の王。


「む? 言っておらなんだか? 妾はこの国の皇帝と取引して、この場の守護を約束したと」

「聞いたよね」「言うとったなぁ」「聞きましたね」

「反故にされたからには店じまいじゃが?」

 

「え?」「え?」「え?」


 つまり、リカコーに出現するかもしれない邪神の眷族(けんぞく)への対処はもう行わないということだ。カルマとメリルの顎が落ちる。キャロルはギリギリで間抜け面は晒さなかったが、それでも開いた口がふさがらない。


「遺跡の機械も一時停止し、入り口も閉じるぞ。ゴーレムの二、三体は連れ歩きたいんじゃが、流石に目立ち過ぎるかのう」

「……ないない」

「じゃな。やめておこう」


 姫君はあ然としたカルマとメリルを見て満足そうに頷いた。


「なに、百年もせずに戻るつもりじゃ。この村の新たな住人を集めてな。

 ゴーレムどもは自動索敵状態にしておく、(ふもと)に被害が出ることはないじゃろ。メンテナンスも五年に一度程度で問題ないぞ」


「…………あれ?」

「もしや姫君、付いてくるつもりですか?」

「あん……? あー、あ〜あ〜〜……」


 噛み合っていないことに、ようやくお互い気が付く。姫は白い頬を赤く染めて視線を泳がせた。

 

(わらわ)の真名を教えたであろ? あれは配偶者にしか教えんのじゃ…………そなたの求婚に応えた。

 であるならば妾はカルマ・ノーディ、そなたの妻として寄り添うつもりじゃったのであるが?」


 妻、求婚。カルマとメリルは頭が真っ白になっていた。いつの間にかそんな話になっていたの?


「カルマさん……口説いたならちゃんと責任を取って下さい。姫君に失礼ですよ」

「あかん、カルマ。あかんでぇ」

「待って待って、誤解を招く言い方はやめて。僕はいつでも真剣だし、きちんと誠意を込めて口説いているから……!」


 そこまで言ってカルマは少し考え込んだ。姫君に求婚したつもりはなかった。いや、どこかで誤解されるような何かがあったのか……?


「あ!」

「あ?」


「『僕が死んだら左目をどうぞ』か!」

「『最期を看取って欲しい』という熱烈極まるプロポーズじゃろ? 年甲斐もなくキュンときたんじゃが……じゃが…………」


 半眼で睨む姫君、行商であるカルマの左目をということは、ずっと傍にいて欲しいという意味に他ならない。

 リップサービスでなければ。


「ああ〜…………なんじゃなんじゃ、本気にした妾が阿呆じゃったか……いや、すまん。忘れてくれ……恥ずかしい、恥ずかしすぎる。ここ五百年で一番じゃ。

 いや、すまん……その、なんだ? 助けに来てくれた時にも少しその、ええと。とにかくすまん」


 しゃがみ込んで顔を隠す姫君。メリルはカルマの脇腹を小突いた。アガスが後ろから肩を殴る。キャロルは斜め下から一睨み。

 

「姫君、その……僕はキャロル以上に後悔ばっかりでウジウジ悩んでいて、将来の展望もなく道に迷うばかりの愚かで面倒くさい男で……うぐっ、キャロル後にして」

「よく聞こえんなぁ。声も器も小ちゃいんちゃうん?」


 かかとでつま先を踏みにじりながらキャロル。ついつい軽口を挟んでしまったことを後悔しながら、カルマは涙目でつづける。


「とにかく駄目な奴なんです。そんな僕でも付いてきてくださるんでしょうか」


 顔を覆った指の間から、明るいオレンジの瞳が覗く。自分と目を、命を共有した姫君。

 彼女が真に求めているのはそんな言葉ではない。なぜなら、姫はすでに答えを伝えてくれているではないか。


 こうなっては後はカルマ次第。


「違うね」


 カルマはメリルを見た。立ち止まっていた自分の足を進めてくれる少年を。

 カルマはアガスを見た。友としてずっと見守ってくれた相棒を。

 カルマはキャロルを見た。同じように過去に縛られていたもう一人の自分を。


「お約束通り、ちょっとはマシな連中をお見せしますよ。

 それに、世界がどれだけ面白くて、珍しいものがたくさんあって、生きていくのがどれほど素敵か、僕に案内させてください」


 カルマは姫の手を取り、接吻して、その手を左目に寄せた。


「確かに」


 姫はカルマの頬を撫で、薔薇が咲くように微笑んだ。


「ちょいとばかりじれったい奴ではあるが、妾は待つのには慣れている。なにしろ時間だけならヒトよりあるからのぅ。

 不束(ふつつか)な奴じゃが、飽きるまでは見ていてやろう」


「この生命が尽きる時まで、退屈はさせないとお約束いたしますよ」

「それは楽しみじゃな」




「結婚式はどうします? うわ、忙しくなるなあ。誰を呼んでどこでやります? やっぱりオットー村ですかね」

「ちょい待ち、メリルはん。オットー村ってなんなん?」


「あのオットーの故郷だ。カルマが復興した」

「はぇっ? なんなん? カルマはホンマ人の心ってもんが(あふ)れとるわぁ。

 ウチも同じ『戦闘魔術師(バトルメイジ)団』の仲間やのに、ウチだけ仲間ハズレにしとったんね……? イケズやわぉ……ウチとのコトは遊びやったん……?」


「キャロル、誤解を招く言い方はやめろ! そういう流れじゃないだろ!」

「おっおっ! なんじゃいきなり愁嘆場か? 修羅場か? さっそく楽しませてくれるのぅ!」





 かくして、カルマ・ノーディと姫君の物語は幕を開けた。

 カルマとキャロルは前に進む。いずれ来る最後の時まで、もう足を止めることはないだろう。お姫様を仲間に加えて、カルマはまだまだ旅をする。


 となれば、すぐにでも事件や難問にぶつかるだろう。その時にはお目にかかれることを祈って、ごきげんよう!





【冒険商人カルマ・ノーディ 第五巻  カルマ・ノーディと宵闇の姫君 完】



少し時間をいただきます。

再開は4/28月曜日からの予定です。


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