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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【カルマ・ノーディの物語】  第三話

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その05 カクタスの出処


「つまり、どういう事ですか?」

「いえ、今言った通りです……」

「もう一度言えと言っているのです」


 口入屋を訪ねていたスィは、頭痛を堪えながら老いた口入れ屋を絞り上げていた。

 黒髪を細く編み込んでひっつめた、長身のスィ。引き締められた皮膚は浅黒く、シートラン南部出身であることが(うかが)える。


 サクズの町には口入れ屋は七軒ほどある。カクタスを紹介してきた口入れ屋は新参で、メリアの屋敷との取引は今回が初めてだった。


 そもそも口入れ屋とは、仕事の斡旋業者のことだ。大店(おおだな)の商人や貴族などの金持ちに、奉公人を紹介するのが主な仕事である。職業訓練を兼ねる場合もある。

 口入れ屋は双方から報酬を得る代わりに、奉公人および奉公先の身元を保証する。これにより、凶状持ちなどが身分を偽って貴族の家に入り込むなどを防ぐのだ。


 多くの口入れ屋は近所の村とも懇意にしており、奉公に出たい子供や出したい親を探す。

 その上で最低限の教育を施してから奉公にさせることが多い。読み書きや計算ができる、教えなくてもできる仕事が多い、そんな奉公人は人気であり、優秀な者を派遣したならば報酬額も上がる。なにせ奉公人の給与から口入れ屋にマージンが入るのが一般的だからだ。


 もちろん、世の中にはモグリの口入れ屋も存在する。口入れ屋には免許も資格なにも無いのだが、非合法な口入れ屋はモグリと呼ぶしかない。

 彼らは奉公人の素性や能力を偽り、報酬を得た所で早々に逃げ出す。盗み癖やサボり癖のある困った奉公人を押し付けてくる、いわば一種の詐欺師である。


「ええと……俺はチンケな詐欺師でして」

「そうですね」


 口入れ屋は地面に這いつくばっていた。彼の横には鼻血を押さえながら泣きべそをかく大男と、泡を吹いて気を失ったチンピラがいる。

 武器を持った三人がかりで、長さ10セルトの鎖を持つだけのスィにコテンパンに伸されるとは思いもよらなかった顔。


 少なくとも口入れ屋本人は人の良さそうな顔と、のんびりした性格の好々爺に見えていた。それも詐欺師の手腕だったのだろう。


「このサクズの町で潜りの口入れ屋をやろうと思っていまして、そんな時に知り合った商人が丁度いいから子供を一人送ってくれないかと言ってきまして」

「それがカクタスだったと?」

「へい」


 つまりこの老人は、カクタスを届けてお礼を貰うよりも、奉公人として派遣し小銭を得ることを選んだのだ。

 ケチな相手だったら、お礼も雀の涙程度だろう。だが、素直に送っててくれれば痛い目を見なくて済んだはずだ。


「だからカクタスの来歴も出身地の手掛かりも知らないと」

「そう言ったじゃあないですかい」


 スィは無言で鎖を回した。この指先で摘んだだけの短い鎖が、変幻自在に目を打ち鼻を砕き指を折りナイフを弾く。

 口入れ屋は青ざめ、大男は見を縮めた。


「実は手紙と金を預かりました」

「…………手紙はどこですか?」

「中身を確認しちまった以上、下手に残すと困るので……」


 鎖が動きを速める。まだ隠していることがあるなら今すぐ話せという無言の圧力。


「蝋印と署名は『デディ商会』でした。内容は『子供を拾ったから面倒を見てくれ』という素っ気ないものでして……」


 スィは頭を抱えたかった。


 『デディ商会』はメリアの古巣、メリアが引退するまで身を粉にして働いていた商会だ。恐らくその手紙の送り主は会長。

 つまり、カルマのモデルになった人物であり、メリアが敬愛してやまない相手。


「つまりカクタスは使用人ではなく客だったと」

「あのガキ、男みたいな名前だったんですね」

「男でしたが?」


 スィはどうでもいいことを口にしながら脳をフル回転させた。メリアががっかりするのはもはや確実だ。

 であるならば残された選択肢は、どうやってダメージを最小限に抑えるのか。


「絶対に荒れる……」

「え?」

「何でもありません」


 こうなったら手紙の内容を聞き出して、ついでに、こいつらを追加で痛めつけた上で衛視に突き出すしかない。


「いつ来るとか、そういった追伸はありませんでしたか?」

「あったら、こちらもやり方を考えますよ」

「でしょうね」


 しかし、それもままならないようだ。

 スィは細かいことを考えるのをやめることにした。


「では、この後ですが」

「お金は色つけて返しますんで、許しちゃもらえませんかね……?」


「痛めつけられてから衛視に突き出されるのと、素直に投獄されるのと、好きな方をお選びください」

「そんな!?」

 

 そんなもこんなもない。

 スィはは悪党には厳しくせよと、母親に(しつ)けられてきた。それが誤りだとは、これまで思ったことはない。




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