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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【冒険商人 カルマ・ノーディ】  第三巻

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その07 臆病者と人違い


 荒れた街道の果てには、木組みの頑丈な柵があった。物見(やぐら)の上には緑色の人影が見え隠れしている。


「お! お!? お前ら悪いヤツか!? 石が欲しいか!」

「いきなり攻撃は勘弁しておくれ! ちょっとここの偉い人と話がしたいんだ! 僕は商人だけど遺憾(いかん)ながら貴族にも顔が利く、戦争にならないようにしたくてね!」


「コムツかしいコト言ってるよ?」

「おれを騙そうとしてるな?」

「戦争がどうとか皆目見当が付かんし。貴族の所に出入りする商人など怪しすぎる。確実にスパイだ」


「三人目のヒト! 話聞いて! 僕はカルマ・ノーディ、平和主義の普通の行商人だよ!」

「バカはムシだって」

「おれはどうでもいいのか」

「待て待て、ノーディ? ノーディさんか?」


 分厚い門がゆっくりと開く、緑色で四角い顔の小型亜人が数人、カルマたちを遠巻きに見ていた。


「知り合いですか?」

「いや、全然」


 トリスタンに聞かれるも、カルマは名を知られている理由が分からない。


「ええと?」

「ロード・プーの所に案内する」


 予想された押し問答もなく、容易く門を通される。カルマたちは拍子抜けしながらも違和感を隠せずにいた。

 誰かと勘違いされている可能性が高く、であるならばこの先に進むのは危険極まる。


「やはり逃げようよメリーくん」

「龍穴に入らずんば龍鱗を得ずですよ。そろそろ覚悟を決めてくださいカルマさん。ゴブリンロードが女の子かもしれないじゃあないですか」

「うーんうーん……ゴブリンの女の子かぁ」


 カルマはこの厄介事は手に余ると判断していた。あの精密な時計。あれは地方貴族なら家宝にしてもおかしくない代物である。どんな理由でも、それがトリスタンの手元にあるのは異常だ。考え方を変えれば、『その程度流出しても問題ない』ということ。

 つまり、同等以上の魔法機械がゴロゴロしていて、セータ子爵は一つ二つサンプルとして渡しても懐が痛まない。いや、むしろ見せびらかしているのだとカルマは感じていた。


 これほど完璧に修復された魔法機械を出せる。これだけではない、まだまだ。

 既にセータ子爵は出資を募っている事だろう。ゴブリンの集落は元々自分の領土だったのだ。勝手に掘り出したゴブリンたちは盗人であり、遺跡と機械の所有権はセータ子爵にあると、そう考えているに違いない。


 ここで、ゴブリンと交渉するような貴族は存在しない。戦争のせいで困窮(こんきゅう)していたとしても、元手は出資金がある。

 武力制圧だ。子爵の所有地を不法占拠するならず者相手に警告などしないだろう。恐らく最初から居丈高に命令し、拒絶された瞬間から攻撃準備を進めている。


「らしくないですよ」

「…………戦争だよ?」


 尻込みし、怯えるカルマ。メリルは彼をもっと正義感と勇気がある人間だと思っていた。


「僕は殺す覚悟がないよ」

「でも、戦争になったらたくさん人が死ぬんですよ?」

「僕はただの商人なんだってば、そんな責任取れないよ」


 メリルはだんだんイライラしてきた。弱音ばっかりで、いったいどうしてしまったのだ?


「臆病者、いつからそんな腰抜けになったんてますか?」

「僕は最初から臆病者の卑怯者だよ。だがら商人なんかに―――」

「やめろ」


 決定的な言葉を止めたのは、二人の口喧嘩を黙って見ていたアガスだった。静かに(かぶり)を振るアガスに、カルマは悲しそうに頭を掻いた。


「ごめん。今のは失言だった」

「カルマさんは勇気がお有りですよ。そうでなければここまで付いてこないでしょう」


 フォローするかのようにトリスタン。案内されたゴブリンの集落は、炭坑を気ままに掘り進めたクモの巣状の迷路だった。

 ゴブリンはあなぐらに住むことを好む。あちこちに粗末な家具や食べ物のゴミが落ちていて、好奇心旺盛(おうせい)なゴブリンたちがカルマたちを見ていた。この地下の王国にどれだけのゴブリンが暮らしているかは、見当もつかない。


 もしも彼らを敵に回したらどうなるのか。慎重に臆病にならない方がおかしい。


「修理のできる職人ゴブリンを殺してしまう危険性があるという話で武力行使を止めたいと思っています」

「貴族は亜人の人権を認めない。彼らを取引相手ではなく奴隷にしたいんだ」


 トリスタンの考えが甘いと、悲観的な物言いをするカルマ。いつも明るいそのオレンジの双眸(そうぼう)が、今はひどく淀んで見えた。


「だから奴を徹底的に叩く方法を用意してくれる。そういう話だったろう?」


 元坑道に置かれた作業机、そこに座っていたゴブリンが、腰を叩きながらそう言った。


「誰が?」

「お前たち、ノーディ商会の者ではないのか?」


 薄汚れた作業服、油だらけの革エプロン、顎髭が生えているので男のゴブリンだ。落ち着いた口調だが、年齢は見た目からでは分からない。


「そうだけれど……いや、何かおかしいな。僕はカルマ・ノーディ。だけれど、多分あなたの言うノーディではありません」


 ノーディ商会は、商会などと名乗っているが実際にはカルマ、アガス、メリルの三人だけ。

 そして、カルマの名はともかくノーディ商会の名前が売れているとも思えない。


「え? じゃあアンタは何者なんだ?」

「セータ子爵と交渉のテーブルを用意できる商人です」


 案内してきたゴブリンが、困ったように職人ゴブリンを見た。


「どうする、ロード?」

「我々がテーブルについたとして、子爵はお行儀よくしてくれるのか?」

「その行儀を教えるのが我々の仕事です」


 答えたのはトリスタンだった。ホリィクラウンの聖騎士として、厄介事の仲裁こそが彼の役割。

 ちなみに、職人ゴブリンがロードだと聞いて驚いたのはメリルだけだった。ゴブリンロードが誰よりも優れた工匠である事は珍しいことではない。むしろ魔法機械を完璧に修理できるのは、ロードだけの可能性すらある。


「具体的な方法は?」

「それを知るために、ここまでやって参りました」


 ロードはふむと小さく唸った。


「いいだろう。案内してやる」



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