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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【冒険商人 カルマ・ノーディ】  第三巻

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その04 表向きの事情と真意


「詳しい事情を説明致しますと、エイベルは危険な女です」


 うんうん、そうだよね。まあまあ美人で性格が最悪でセクシーな身体の女聖騎士。危険な女ですね。カルマは満面の笑みで頷いた。

 トリスタンがどのような論調でカルマを引き離そうとするのか、楽しくなってきているのだ。


「カルマさん方の詳しい事情は存じませんが、少なくとも、俺が関知している限りエイベルがカルマさんに支払うべき報酬が明らかに少ない、というか、未払いなのではありませんか?」

「はい」

「ええと……」


 即答するメリル。実際問題、エイベルは自分の懐を痛ませず、厄介事をカルマに投げてくる。

 報酬は現地での問題解決時に当事者からもらえることが多く、さらに貴族や有力者と顔を繋ぐ事もできるため、許容できる範囲ではある。それでも、メリルはずっと釈然(しゃくぜん)としないものを抱えてきた。


「密偵を外注で頼む場合、必要経費込みで月額は金貨で十枚程度だと考えています。これが約三年、エイベルからの未払いは金貨で千枚程度になるのではないでしょうか」

「え」「え」


 十かける三十六カ月。計算が合わずに硬直するメリルとカルマ。そもそも月々金貨十枚と言われた時点で二人の金銭感覚は取り返しがつかないほどに破損していた。


「最終的にはこれらをお支払いしたいと思っていますが、残念ながら俺がすぐに動かせる金額ではありません」

「いやいや、それは払い過ぎでしょう! ボクらはこちらの都合で仕事の取捨選択をしていますし、近くに寄った時に行う片手間の副業みたいなものです。その金額は本業のプロ集団の報酬でしょう!?」


 ちなみに、この時代の労働者の一般的な月給は銀貨で二百枚。多くは住み込みで食事も支給され、給料から諸々天引きされて手取りは百枚以下となる。

 さらにメリルのような若年労働者は『仕事を教わっている立場』であるため、給料はさらに少なく授業料として天引きされ、手元に残るのは小遣い程度となる。


 一応、メリルに関しては恵まれていて、経理や目利きを任されて一人前の給料を出してもらっていた。


「いいですか、トリスタンさん。ボクらは情報屋の真似事をしていますが、エイベルさんからお金をもらっていないので、それなりの事しかしていません。

 噂話低度の情報を伝えたり、裏取りしないのは当たり前。投げられた厄介事も、手に余るなら無視するような気楽な関係です」


「そう仰って下さるなら、俺としても助かります。手付け金のつもりでしたが、未払い分はこれで足りますか?」


 トリスタンが手を挙げると、従者が荷物を開き、頑丈な木箱を待ってきた。木箱は30セルト角で、高さは10セルト低度。無垢の木材で、しかし中身はずっしりと重そうだ。

 嫌な予感に冷や汗をかきながら、カルマたちは従者が丁寧に箱を開けるのを見ていた。中には高級で鮮やかな朱色の布が敷き詰められ、何か握り拳大の薄いものが入っていた。


 布の下から出てきた『それ』が陽光を受け、目が眩まんばかりに輝く。それはもはやコインというかメダル。精緻(せいち)な彫刻のなされた黄金の塊。大金貨であった。

 銀貨百枚=金貨一枚。金貨百枚=大金貨一枚。つまり大金貨は銀貨一万枚の価値を持つ。一般人ならば一生お目にかかれない代物だ。


「だ、ダメですそんなもの! こんな所で!」

「町中よりも人目がないので良いでしょう?」


「そんなもの頂いても両替の当てがありませんよ!」

「俺の署名した羊皮紙が入っています」


 大金貨は金額が大きすぎて一般流通していない。そのため、両替商に通常の金貨に換えてもらう必要があるのだが、当然一般人が大金貨など持っているはずもない。

 両替の際にはあらぬ疑いをかけられぬように渡した貴族の一筆を提出するのが暗黙の了解であった。


『ノーディ商会へ、貢献への報酬として大金貨一枚を与えるものとする。

  トリスタン・パトリオット』


 手紙にも怪しい部分はない。しかし金額があまりにも大きすぎる。メリルは完全にパニックを起こしていた。

 だがその横で、カルマはなるほどと頷いた。ぐだぐだと建前が長かったが、ようやくトリスタンの目的が見えてきた。エイベルから離れろというのも建前だったのだ。

 

「分かりましたトリスタンさん。仕事の話をしましょう」

「はい?」

「しかし僕らは平和主義の商人です。スパイの真似事や運び屋はできますが、荒事はお断りです」


 これだけの大金だ。トリスタンはエイベルからカルマたちを引き抜いて、自由にできる手足として利用したいのだろう。


「あ、ええ。ですからエイベルに近付かないようにして頂きたいです。この金額があればどこかに店を建てられるのではありませんか?」

「ええ、そういう体にしておきたいのですね。良く分かります。先程仰られた通り、ここならば他の人の耳もありません」


 そういう表向きの理由はもう十分だった。だが、いつまでも立ち話をしていてはお互いに時間の無駄だろう。


「ですから。これ以上はカルマさんたちに危険が及ぶでしょう。先程の殺し屋は口を割りました」

「ころしや?」


 カルマとトリスタンは、しばし見つめ合った。お互いに探り合うような視線が絡む。

 カルマは振り向き、メリルとアガスを見た。トリスタンも従者と顔を見合わせた。


「もしかして、もしかすると」

「はい。俺もそう思っていました」

「最初から、細かく、説明をお願いできますか?」


 カルマの言葉にトリスタンは深く頷いた。



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