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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【冒険商人 カルマ・ノーディ】  第三巻

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その02 旅芸人とことのはじまり


 六龍歴1024年、春。オールガス帝国を二つに引き裂いた甲雲戦争が終わりを告げて五年。

 人々は安定しつつある生活に喜び、この平和が永遠であることを祈る時代。やがて来たる次の戦禍など、想像もできぬままに。


 後世の歴史家に『十年の平和』と呼ばれるこの時代。現代に比べて驚くほどに聖冠(せいかん)教会の力が強く、教会は人々の暮らしにさえ口を出していた。

 かりそめの平和であるからこそ、信仰の力は今以上に強く、人々の心を掴んでいたのである。


 これは過去に縛られながらも、新たな未来を模索する者たちの物語である。


 物語はオールガス帝国領北東部に位置するセータ領へ向かう街道から始まる。

 街道沿いに移動していたカルマ、メリル、アガスと白浪号の馬車が、旅芸人の一座と合流したのは偶然であった。石に乗り上げた衝撃で彼らの馬車の車輪が外れてしまったのである。


「どうしました美しいお嬢さん方、何かお困りごとでしたなら、このカルマ・ノーディが力になりますよ」

「ちょっとカルマさん、そんな暇がどこにあるんです? 道草食っていたら今日中に次の宿場に着きませんよ?」


 肌もあらわな服を着た踊り子や歌姫、詩人や裏方の男たちがなんとかならないものかと右往左往している所に、カルマはいつもの調子で声をかけた。

 当然、メリルが反発する。この辺りは街道の整備が行き届かず、宿場の数も少ない。

 

「何言っているんだメリーくん。情けは人のためならず。困った時はお互い様だろう?」

「メリルです。もう女の子に見える歳じゃないでしょう?」


 十二歳になったメリルであるが、身長はまるで伸びず、顔立ちもあどけない。未だに女の子と間違えられてもおかしくない外見であった。


「車輪が外れちまって、まず荷物を降ろさにゃならんのだ」


 荷馬車には楽器や小道具が山盛りに積まれていた。車輪をはめるには車体を持ち上げねばならない。

 荷物を全部降ろして詰め直すのは随分な手間になる。


「アガス、頼めるかい?」

「……」

「いやいや、いくら力持ちでもこりゃ無理だよ。三人がかりでも持ち上がらないんだ」


 黒檀(こくたん)色の肌をした無口な巨漢が、言われるがままに荷馬車に近付く。

 首を鳴らし、両手を伸ばした。その全身が金属のような光沢を持つ赤銅色に輝き、炎のような陽炎(かげろう)を立てる。


「そいつは……!?」

「魔法だよ魔法。『鉄人』と『龍の力』の重ねがけ。一分と持たないから、支えを入れてやって」


 正確にはもっと複数の魔法を重ねて使っていた。アガスは防衛に長けた『硫黄と真鍮のブラサルファ』の優れた魔法戦士だ。

 重い荷物を持つ『荷役』や、休まずに働ける『不夜』、肉体疲労を回復する『賦活(ふかつ)』など様々な魔法を行使できる。


 この時は『荷役』と身体を金属のように変えて強くなる『鉄人』の他にも、攻撃を受け止める『盾』の魔法も使っていた。

 『盾』本来の使い方は、攻撃をされた際にその衝撃を和らげるものである。

 しかしカルマは研究の末に、この魔法の効果を『術者に与えられる負荷を抑える』だと発見していた。


 多くの魔法使いは魔法の使い方を習った通りに使おうとする。魔法一つ一つを研究し、その応用をしようとするカルマは特殊だった。

 しかしその研究により、『盾』は重い荷物を持ち上げようとした瞬間の全身への衝撃を緩和できる事が判明した。


 現代では腰の負担を軽減するために多くの現場で利用されるが、当時は誰もそんな使い方を知らなかった。


 カルマはこの時さらに、『真紅の悪龍ライフレア』の魔法である『龍の力』と『保護』をアガスにかけていた。

 超人的な身体能力を得られる代わりに、激しく体力を消耗させる「龍の力』は、通常は十秒と保たない。

 しかし、過酷な環境などから肉体を守る『保護』を重ねてかけると消耗が少なくなる事も、彼の研究から分かっていた。


 他にも、白浪号に『不休』や『荷役』をかけることで負担を減らし長時間の移動を可能にしたり、『島龍ファンガーロッツ』の魔法を借りる事で、早馬を元来の倍の速度で走らせるなど行った。

 カルマはこれらの研究内容を工業ギルドや通信ギルドに売りつけることで小銭を稼ぎながら信頼を得つつあった。


 さて、カルマたちの助力により無事に車輪は直されたものの、それでも時間は浪費された。

 仕方がないのでカルマたちと旅芸人の一座は野営をする事になり、報酬代わりに食事と酒を振る舞われた。


 だがカルマたちは酒を辞退した。金銭の報酬も受け取らず、不寝番まで買って出た。恐縮する旅芸人たちであったが、カルマとアガスは気に留めず。メリルも仕方がないと諦めていた。


「見張りくらい任せてください。それくらいはできますから」


 そう言う旅芸人の護衛に、カルマは困ったように笑った。違うのだ。そもそもが違う。

 野営では酒を飲まないのも、見張りをするのも、戦場での癖が抜けていないだけ。夜の屋外で警戒をしすぎることはない。これだけのこと。


「そういえば、この北の山に珍しいものを扱っている蛮族だか亜人だかの集落があるらしいですわよ?」


 翌朝、分かれ道で例の踊り子がそんな事を言いだした。


「珍しいもの?」

「金属を組み合わせた歯車仕掛けの道具だとか。興味がございます?」

「ありますあります!」


 食い付いたのはメリルで、カルマたちは旅芸人と別れて、一路北へと向かった。



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