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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【カルマ・ノーディの物語】  第二話

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その08 秘密のふわふわ


 教会へ行くために勉強をするという話は、カクタスにもメリアにもすんなりと受け入れられた。

 今まで、メリアの肩をもんだり、ぼんやりしたり、メリアの足を擦ったり、ぼんやりしたりで時間を使ってきたカクタスにはちょうどいい目的だった。


 聖冠(せいかん)教会は、唯一にして至高の主を絶対神として崇める組織である。

 主はこの世界と六龍を創造し、人間を作り出した。


 そして聖冠教会は偉大なる主の言葉を人々に伝える預言者的立ち位置であり、各々の国歌に王権を授ける存在。

 つまり、国よりも上の立場にある。ものだった。


 三十年程前まで、聖冠教会は神聖ホリィクラウン法国として、大陸西部に君臨していた。

 しかし、ホリィクラウンは権力と信仰を笠に私利を(むさぼ)る腐敗の万魔殿でもあった。


 その最果てとなったのが、父殺しの簒奪(さんだつ)者アベル・ノーマルによる軍事クーデターである。

 強欲にして悪逆の男アベルは、法王だった父を殺害し、邪魔する官僚らも虐殺、自らをホリィクラウンの王であると僭称(せんしょう)した。


 しかし彼の野望は、親友の聖騎士トリスタン・パトリオットによって阻まれる。

 アベルは討たれ、混乱だけが残った。機を見るに敏で、いち早くアベルに寝返った地方官吏はアベル本人に粛清(しゅくせい)され、残ったのはトリスタンの檄に応じて私財を投げうち立ち上がった者ばかり。


 図らずも腐敗は根こそぎになり、神聖ホリィクラウン法国は各国への干渉を止め、俗世の政治には関わらぬ宗教団体に縮小した。

 それが現在残った聖冠教会である。



 お祈りに存在するのは最低限のマナーだけである。

 礼拝堂でひざまずき、目を閉じ、口には出さずに静かに祈る。


 膝を付くのは片膝でも両膝でも良い。手は祈りの形。唯一にして偉大なる主の聖なる印『重なる二重円』だ。

 片手の人さし指と親指で丸を作り、もう片手で包むように構える。


 服装は華美よりも質素が好まれるが、場合によりけりである。早世した親に見せたいと花嫁衣装で祈る女性がいても、注意する者などいない。

 しかし、基本的には質素で清潔が好まれ、帽子は脱ぐ。


 そう。帽子は、脱がねばならない。


 カクタスのトレードマークであり、屋敷ではコー以外指摘しなくなった、頭をすっぽりと覆う大きな帽子。

 美しい白い髪を全部詰め込んだその帽子の中身は、お湯をかぶった時すら見せなかった。


「基本的な挨拶と会話はできる必要がありますね。そして一番の問題は……」

「帽子だろ? どうするかねぇ」


 不思議そうに小首を傾げるカクタス。分かっていることとして、実はカクタス自身は帽子に強い執着がある訳でもないということ。

 だが、帽子を脱ごうとはしない。スィには理解できなかった。メリアは理由を知っているようだったが、教えてはくれない。


「脱げないのですか?」

「できれば脱がずに誤魔化したい」


 メリアの返事は明快だった。これは覚悟を決めねばならないとスィは思った。かぶりものをしてお祈りする方法を考えねばならない。


「理由を聞いても?」

「聞いたらあんた、反対するよ?」

「偽の修道女(シスター)や未亡人の振りをさせる以外の方法を取りたいのですが」

「…………?」


 シスターは美しい髪をウィンプルに隠して、心を惑わせる美という概念から遠ざかろうと心がける。夫を亡くして喪に服している最中の未亡人は、よく似た理由で髪を隠して顔をベールで覆う。

 シンプルに髪は隠せるが、どちらもカクタスに嘘をつかせることになる。


「…………スィ、潜入工作に向いてるね」

「母の娘ですから」

「そうだった」

「…………?」


 メリアは少し悩んでから、スィとカクタスを見比べて苦笑した。考えるまでもなかったとでも言うかのように。

 カクタスの大きな帽子、メリアはそれを引き抜いた。ゆるくウェーブした純白の髪が広がる。肩甲骨まである長さ。カクタスの容姿と合わさって、美少女にしか見えない。


 しかし、一つ異様なものがあった。


 頭部側面に本来あるべきものがなく、上面に動くものが合った。

 髪と同じ色の、ふわふわの白い産毛に包まれたそれ、今まで帽子に潰されていたものがゆっくりと立ち上がる。


 幅6セルト、高さ30セルト程の二本の耳。右は半折れ状態で、左はピンと立ち上がり、スィとメリアに向いてぴょこぴょこと動く。

 誰が何と言おうと間違いなく、ウサギの耳であった。


「…………兎人(エリルフレア)ですか」

「ちょいとばかり面倒だろ?」

「いつから知っておられたのです?」

「一目見た時からだね」


 亜人と呼ばれる、人間以外のヒトは帝国では好まれていない。嫌われていると言ってもよい。

 これには二十年前の『天冥戦乱』と呼ばれる戦争が関係し、帝国では未だに亜人への差別と偏見が横行していた。


 帝国における唯一なる主の信仰が強いのも原因の一つで、六龍に仕える亜人たちは、自分らを創造した龍こそが至上神であると信じて疑わず、それどころか唯一にして偉大なる主の存在を信じてすらいない。

 つまり、亜人が教会で祈りを捧げるという行為そのものが問題なのだ。


 最悪門前払いされかねない。



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