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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【カルマ・ノーディの物語】  第二話

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その02 朝食のお祈り



 朝日の前に起き出してメリアは果樹園の散歩に向かう。カクタスは夜更かしを付き合わされる代わりに、朝は朝食まで寝ることを許されていた。

 子供の成長には十分な睡眠時間が必要だ。必要なのだが、カクタスの眠りは浅い。


 彼のこれまでの生活は、ゆっくりとした深い眠りとは無縁であった。

 いつ何時(なんどき)叩き起こされてもおかしくない。すぐに起きれなければ罰を与えられる。


 それ故にカクタスは、僅かな物音でも敏感に反応した。メリアがゆっくりと寝台から降りて、外着に着替え、杖を片手に静かにドアを開けた時には、カクタスは既に臨戦態勢に入っている。

 服に着替えはしていなくとも、すぐにどんな命令をされてもいいように、寝台の上に座って待機しているのだ。


 メリアが何も申し付けずに散歩に行ってしまうと、カクタスは安堵(あんど)の息を吐いて再び寝台に横になる。

 しかし、扉の向こうに人の気配を察知した瞬間にはもう動いている。誰かが働いている時間は、カクタスに安息は訪れない。


 メリアの部屋から食堂は近い。調理場で作業を始めたマルーの気配を、カクタスは敏感にキャッチしていた。

 起床予定はメリアの帰宅、それ迄はカクタスは息を潜めて待つ。許可された時間より早く起きては、罰を与えられるかもしれないからだ。




 メリアの屋敷の食事は、基本的にメリア用とそれ以外用に分かれる。メリアは貴族ではないが雇用主であるため、一番良いものを食べる。

 しかし、菜食主義であるため、肉料理や魚料理は必要としない。柔らかなパン、豆や根菜のスープ、生野菜と果物、ナッツ類、ミルクがメリアの食事である。


 他の従業員には、肉や魚、あるいは卵料理が出される。煮込み料理の場合は、マルーはメリアの分だけ別鍋で作る。


 この料理を初めて目の当たりにした時、カクタスは怖気(おじけ)づいた。自分はひどく場違いで、こんな所に居ていいとは思えずに。椅子から降りてひざまずいた。

 その時は、メリアと二人の食事だったため問題は起きなかったが、カクタスが屋敷に来て四日目。全員での食事は初体験である。


「カク、食事の七ヶ条を復唱するよ。


 一つ、自分の食べれる分だけを取る。

 一つ、順番は年の順。

 一つ、食事の前にはお祈り。


 一つ、周りが不愉快にならない程度にマナーを守れ。

 一つ、おかわりは早いもの勝ち。


 一つ、食べ終わったら感謝の言葉。

 一つ、お残しは厳罰」


 メリアの言葉に震えながら頷くカクタス。緊張し過ぎて青ざめている。


「まあ、朝晩二回のお楽しみだ。気軽に食えよ」


 老婆メリアが、豆のサラダとフルーツばかり大量に取る。パンは一切れだけ。なお、スープとミルクは全員分が既に配膳されていた。


「好きなものを教えてもらえりゃあ、こちらもやる気が出るんだがね」


 痩せた老コックが、無愛想にそう言った。カクタスは震え上がる。何か怒らせただろうか。


「マルーさんはコックなので、最後に取ります。ちなみに私はシートラン風のスパイスの効いた料理が好きです」

「諦めろ、それが好きなのはスィだけだ」


 黒い肌の女秘書が、豆のサラダとフルーツをよそい、パンを三切れ取り、厚切りのベーコンを二枚と卵焼きをたっぷりパンに乗せた。

 すごい分量だ。カクタスはめまいがした。


「俺とコーは同格だから、コーが優先」

「レディファーストってことね」


 鼻ぺちゃのコーは、サラダ少なめフルーツ多め、パンは一枚だがベーコンと卵焼きは大きいものを取り分ける。

 やんちゃ小僧のヘンはパン三枚にベーコン三枚、卵も大量。そこで周りに睨まれてサラダを取った。


「生のネギニガテなんだよ……じゃあ、カクの番だぜ」

「…………あ、えと……はい」


 カクタスは少し悩んで、パンを二枚とサラダとフルーツを取った。


「肉や卵も食え、栄養があるぞ」

「あ、でも……」


 ムスッとしたマルーの言い方に、カクタスは萎縮し切っていた。口の中でモゴモゴと言い訳を言う。だが、面と向かって言うのは難しい。


「マルー、ベーコンを一口分切り取ってやんな。脂身少なめで。卵はたぶん食えるが、ベーコンは難しいかもね」

「…………それより、帽子はいいんですか?」


 イライラした口調でコーがカクタスの大きな帽子を指さした。頭がすっぽり隠れるほどの帽子、先日お湯をかぶった時も外さなかったもの。


「いいんだよ、放っといてやれ」

「…………はぁい」


 不満たらたらながら口では従うコー、その間に、マルーがベーコンをナイフで切る。


「塩加減も火の通りもいい。もっと必要なら言え」

「……はい」

「では、食事の前には神さまにお祈りだ」


 カクタス以外は慣れた様子で姿勢を正して目を閉じる。カクタスは見様見真似で姿勢を正して、薄目を開けて様子を見た。


「天におわします唯一にして偉大なる我らが父にして主よ。日々のお恵みに感謝致します」

「我らを苛烈なる世界からお守りくださる勇猛なる六龍の王よ、今日この日、我らがまだ喰らう側であることを御礼申し上げます」

「情深い冬の女王、我らはその慈悲に抱かれ此度もまた生きる糧を得ることが叶いました。同じ喜びが明日も続くとは限らないことを胸に刻みます」


 マルー、ヘン、メリアがそれぞれまったく違う文言でお祈りをした。スィとコーは無言である。

 しかしカクタスは神さまに疎い。唯一にして至高の主も、世界を作った六龍も、誰にも祈りの言葉すら教えてもらうことが無かった。


(ありがとう、メリアさま)


 だからカクタスは、メリアに祈った。


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