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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【冒険商人 カルマ・ノーディ】  第二巻

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その07 ラプトルと断罪者


「は、跳ねトカゲだ!」

「あ、あ、アニキ、どうすんだよ!?」

「近寄せるな! 腕とか食い千切られるぞ!!」


 翌朝、ほら穴を出たエブたちならず者一行を襲ったのは、中型の肉食獣であった。

 正確には、中型肉食獣の群れに追われていたのは山羊であり、件の山羊はノロマな人間に肉食獣を押しつけて崖を駆け下りて見事に逃げおおせた。


盗人蜥蜴(ラプトル)か!」


 ラプトルは山岳にしばしば見られる中型の走り蜥蜴(トカゲ)で、体高は1メルトから1メルト半、頭から尻尾の先までは2.5から4メルトもある肉食動物だ。

 トカゲと鳥の中間種であり、全身に赤や橙、黒の羽毛が生えている。五匹から二十匹程度の群れで行動し、協力して獲物を狩る社会的猛獣だ。


 危険なのはナイフのような牙の並んだ大きな口と、急な斜面も物ともしない脚力と蹴爪。そして荒地や赤土の色に紛れる体毛と、足音を立てない動き。

 前脚は退化していて用をなさないが、顎の力は極めて強く、指程度なら簡単に食い千切る。腕は少し難しい。


 エブ率いるならず者たちは思い思いの武器を握った。刀剣類は、リディオの持つような短剣でも貴重品である。

 エブたちの武器はこん棒やナタ、手斧であった。


「ひいっ!?」「来るな!」


 やたらに武器を振り回して威嚇(いかく)する男たち、体格が良いスキンヘッドのジードも、近寄せまいとこん棒を振り回すだけだ。

 羽毛を逆立てて攻撃の機会を狙うラプトル。今まさに飛びかかろうとした一匹の鼻っ面が、振り下ろされた刃によって両断される。


「落ち着け! 戦闘訓練くらいしてるだろ!?」

「してねーよ! 俺たちゃただの……!」


 ただの、弱いものいじめしかできないゴロツキです。そんなことは口にできず、エブは口ごもった。

 果敢に立ち向かうリディオの後で、ならず者たちは、すくみあがっていた。


「来い!」


 クロウラが指を振ると、槍と盾で武装した白く輝く霊魂の兵士が一人だけ現れた。単純な労働力としての霊魂よりも、戦える霊魂を使役するほうが難しい。

 霊魂の兵士の槍が、別のラプトルを串刺しにする。


 その間に素早く踏み込んだリディオが、別の一匹を小盾で殴打し、鋭い切先で喉を掻き切った。

 三匹倒された事で、この連中はノロマな獲物ではなく厄介な敵だと気付いたラプトルども、迷いなく撤退する。


「ひい、ひい……」

「戻れ、助かった」「こいつら、食えるのかな……?」


 ぐったりとへたり込むエブやジード。その間に、リディオがまだ息のあるラプトルにとどめを刺す。


「でもそれよりも、エブさん」


 リディオが布で刃の血を拭いながら、剣呑な目を向けた。


「アンタたち、本当はなんなんだ?」


 その後で舌打ちをするクロウラ。エブは全身から脂汗が噴き出るのを感じた。ヤバイ。しまった。やっぱりこんな奴雇うんじゃあなかった。どうにかして誤魔化すか? それとも、フクロにしてしまう方が早いか?

 少なくとも、クロウラは金で動く。ならば六対一だ。あのよく切れる短剣は売り物になる。エブが使ってもいい。


「まあ待て、これまで説明できなくて悪かったよ。実は俺たちゃ……」


 背中に回した手で、手下たちに合図を出す。『合図をしたら囲んで殴れ』。

 だが、ならず者たちが殺気立つのと、新たな声が降って来たのは同じタイミングだった。


「ああ、それは僕たちも気になるな。コソコソと後をつけてきて……もしかしてもしかすると僕のファンかな? 有名人はつらいね。でも悪いけど、握手やサインは女の子にしかしてないんだ」

「ううっ!?」


 見下ろすような位置取りで、赤毛の青年が立っていた。その横には黒檀(こくたん)色の肌の巨漢と、不安そうな子供。


「もしかして、商隊かな? 参ったね。同じタイミングで来ちゃうとは運がない」

「そ、そうだ! 俺たちは蛮族と取引してる商人なんだ!」

「それにしちゃあ、荷物が少いな」


 エブはリディオを見た。油断なく身構える青年剣士。崖の上の男の様子も見る。人数では勝っているとは言っても、両方と敵対するのは愚策であった。

 そんな折、エブの脳裏に電撃が走った。最高の言い訳が思い付いたのだ。


「お、俺たちゃ商人だ! だが、今は商売で来てる訳じゃねえ、蛮族相手にあくどい取引をしてる連中がいるって聞いて、居ても立ってもいられなくなったんだ!」

「なるほど、そうだったのか」


 ほっとした顔で構えを解くリディオ、騙されやすくて本当に助かる。しかし崖の上の男は不思議そうに首を傾げる。


「エイベルからもムスカ伯爵からもあの女(クジャン)からもそんな情報は聞いていないなぁ。

 僕が聞いているのは、クジャン族の集落に行った商人が戻らないって話と」


 ヤバイ。エブは青ざめた。


 今思えばコイツ、これ見よがしに安酒場で行動の予定を口にしていた。最初から『その気』だったんだ。

 コイツラこそ密偵で、自分たちは釣り上げられた魚なのだ!


「裏ルートでクジャン族から仕入れたものを売りさばいてる男の人相くらいかな?」

「ブッ殺せ!!」

「よし、待たせたな。殺していいぞ」


 エブがナタを掲げて叫ぶのと、ならず者を囲うように、白く輝く霊魂の戦士たちが現れるのは同時だった。大気が震える。空気が凍てつく。

 無慈悲に振り上げられる短剣やこん棒に、エブはみっともなく悲鳴をあげた。



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