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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【冒険商人 カルマ・ノーディ】  第二巻

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その06 平和協定と利用する女


「さてクジャン。僕が思うに貴女の目的は『侵入者』の排除では?」

「ほう、面白い考えだな。しかしそれは不可思議ぞ。この地(クジャン)は帝国と平和協定を結んでおる。であれば、何者がこの地(クジャン)に侵入する?」


 カルマの言葉に、龍なる女クジャンは上機嫌で答えた。


「それ以前に貴女は、人間同士の取り決めになど興味ないのではありませんか」

「いかにも」

「ちょっと待ってください」


 メリルは立ち上がり、両手で頬をピシャリと叩いた。寝ぼけている場合ではないと気付いたのだ。これはただの来客ではない。

 ドラゴンに、この山(クジャン)の守護者に試されているのだ。


「ボクらはこの山に商売に来ました。他の地方の珍しい特産品や香辛料を用意し、この地の特産品と交換しようと考えてのことです。

 それもひとえに、カルマさんがクジャン族と親交があるからであり、ボクらにはこの地の人々と敵対する意思はありません」


 強い語調のメリル。龍の女(クジャン)は目を細めた。


「もしもこの地に害する者があったとしても、それはカルマさんとは無関係だと断言いたします」

「聡い小僧だな。本当に聡い。いかにも(クジャン)は貴様らを疑って、なんなら殺すためにここにおる」


「身の潔白を証明しろと言うんですか?」

「いや、貴様ら以外にはそう言ったろう。だがこの時、この状況で貴様がここにあるのは龍の導き。責務を果たせと言いに来たのだ」

「…………責務?」


 メリルの目が吊り上がりながらカルマに向けられた。つまりどこでどんな余計なことをしたの? また女絡みでお金にならないことでしょう?

 以心伝心。皆まで言われずともカルマはメリルの言わんとする事が必要以上に理解できた。


「待ちたまえメリーくん。やむにやまれぬ事情というものがあったんだ」

「なんだ、何も教えていないのか?」

「…………自慢にもならないからね」


 ため息を一つ、少し考え込んだ後に、カルマは諦めたように口を開いた。


「三年ほど前に、僕がクジャン族の集落に来たことを話したろう? あの頃はまだ、ムスカ伯爵とクジャン族は国境線の関係で揉めていたんだ」

「それでも、そ奴は我が土地(クジャン)に来た。あっという間に捕まって、簀巻(すま)きにされて焼き殺される所であったな」

「わざとですよ、わざと」


 絶対にわざとではないが、メリルは指摘しないことにした。


「当時の僕らは、古い仲間の故郷を回っていたんだ。本当は一人で行くつもりだったんだけど、アガスが無理やり付いてきて、むさ苦しい男の二人旅だったよ」

「クジャン族のご友人が居たんですか?」

「小隊長だった。僕は彼の荷物と手紙を届けに来たのさ。平和的に済ませたかった」


 わざと捕まったと言い張るカルマ、龍の女(クジャン)がクククと思い出し笑い。


「あの時切られた啖呵(たんか)は忘れておらんぞ」

「恥ずかしいから忘れていただきたいてますね」


 身動きできない、殺される直前に、カルマは何と言ったのだろう。詐欺師顔負けの舌先三寸で、クジャン族を丸め込んでしまったのか。


「『お前ら程度……』」

「なんでもします許してください」

「ふふっ」


 一同の視線がアガスに向いた。龍の女(クジャン)の登場にも沈黙を貫いていた黒い肌の大男は、珍しく微笑みを浮かべていた。


「アガスまで笑うなよ。平和最高、戦争反対って言っただけだろ?」

「要約するとそうなるな。その言葉に感動した(クジャン)は素直に解放した」


「『同じ言葉を街の人間にも吐いてこい。戦を止められるものなら止めてみろ。失敗したら殺す。逃げても殺す。地の果てまで追いかけて、一切合切焼き尽くす』という脅迫付きでね」

「やり遂げたんですね?」

「ムスカ伯爵も甲雲戦争で消耗してたしね」


 だからこそ、肥沃な森や山の資源を欲しがった。暴力に疲れていても、暴力以外の手段を探る手間を惜しんでいた。

 平和協定は渡りに船だった。面倒事と責任を、一人の流れ者に押しつけて、失敗したら戦争をすればいいだけだった。


「あれ以降、帝国の兵は我が山(クジャン)に来ない。代わりに商人どもが顔を見せるようになった。

 薬品、香辛料、綿織物……我が民(クジャン)は潤っている。我が民(クジャン)が満足ならば(クジャン)も満足だった」


 だが、それは過去形だ。龍の女(クジャン)の眼がギラリと光る。


「ここ数ヶ月、商人が戻らなくなったと」

集落(クジャン)は彼らを歓迎し、無事に帰している」

「カルマさん、待ってください。嫌な予感がするんですが……何を知っているんですか?」


 メリルの言葉に、カルマは肩をすくめて荷物から手紙を取り出した。

 貴族が使うような羊皮紙の書簡。そこに押された(ろう)印に、メリルが眉をひそめた。


「ムスカ領は『クジャン族が商人を殺すことで代金を払わずに荷物を奪っている』と主張している。誇り高きクジャンの民がそんな事をするはず無いのにな」


「知っていたのか」

「ホリィクラウンの『調停屋』からのタレコミ」


 レブカ領での事件以降、既に何度も目にした蝋印。神聖ホリィクラウン法国の聖騎士であり、『国家間調停官』なる役職の、乾いた笑いと眠たげな目の女、エイベルからの情報だ。

 あの女は地方の問題をカルマに丸投げして来る。カルマとしては地方領主などとのコネクションができるし、当然報酬も貰える。エイベルは面倒事を任せられる有能な手下が欲しかった。


 一挙両得、お互いwin-winの関係であるのだが、明らかに商人の仕事ではない。

 便利に利用されている感じが強くて、メリルは正直気分が良くない。


「今の平穏を形作ったのは貴様だ。帝国と我が民(クジャン)が再び対立を選ぶならば、(クジャン)は構わん。好きにさせる…………だが、ここに貴様が居るのならば」

「平和を継続させるべく動くのが責任てことですね…………まあ、仕込みは済んでるし、明日の朝に仕掛けてみるかな」

 


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