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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【冒険商人 カルマ・ノーディ】  第二巻

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その03 悪霊使いとすごい荷物

 ムスカの街からクジャン族の集落までは、徒歩で一日から二日の行程である。

 山に慣れているならば一日かからずに到着するだろうが、不慣れならば二日かけても難しかろう道のりだ。


 クジャン族はクジャンの名を冠した荒山の中腹に集落を構える。クジャン山は(ふもと)こそ自然豊かであるが、切り立った山道は地肌と岩盤が露出している。

 『真紅の悪龍ライフレア』を崇める蛮族の多くは、こういった荒山を住処とする。


「あんな不便な場所を村にするとか信じられねーや」

「まったくでやすね、アニキ」


 エブたち七人は、朝一番ではなく少し経った所で街を出た。目的地が同じなら、少し遠巻きの方が追跡しやすいというものだ。

 なにしろ、麓付近はともかく荒山は見通しが良い。


 クジャン山の麓には手付かずの自然が残されているが、地元の狩人はほとんど近付かない。これは街の人間も蛮族も同様である。

 麓の森は言うなれば緩衝地帯であった。どちらも利用しないことで無用な接触と摩擦(まさつ)を避けるための土地であった。


 そのせいもあって、道はあっても道とは呼びづらいものであった。

 人が手入れをしなければ、踏みしめた道など植物は容易く侵食する。(やぶ)と枝が伸び放題の獣道がエブたちの前に広がっていた。


「前の連中も枝を払ってるはずだが……」

「必要最低限だけみたいだな、チッ。めんどくせぇ」


 文句を言いながらナタを取り出すエブ。


「報酬に色を付けてくれんなら、オレがやってもいいが?」

「おいおい? できんのかよ」

「チビはお互い様だろうが」


 ドクロの面をかぶったクロウラが、甲高い声で耳障りに笑う。


「仕事だ、野郎ども」

「ヒエッ!」


 クロウラが指を鳴らすと、白っぽい人影が複数現れた。ドクロの面をかぶった半透明の男たち。まだ熱く湿っぽい初秋の空気が凍りつく。ジードや手下たちが悲鳴を上げる。


「お、お前……悪霊使い(ネクロマンサー)だったのか!?」

「ゴミクソと一緒にすんじゃねーよ。オレは『冬を呼ぶものイスワーン』の未練清算人(ソウルテイカー)だ」


 未練清算人は六龍の一柱『冬を呼ぶものイスワーン』の魔法使いで、未練を残して死んだ霊魂の願いを叶える代わりに、労働力として使役する魔法使いである。

 その多くは墓守や配達人だ。未練の多くは家族や恋人への遺言だからだ。


 しかし、あまり大きな街では嫌われ者だ。なにしろ未練清算人は『死人の声が聞ける』。

 つまり、悪党にとってこれほど邪魔な存在はいないのである。


「アニキ、知ってやすか?」

「え? ああ! もちろん知ってるぜ! ソウルテイマーな?」

「すげえや、さすがはアニキ」 


 つまらない見栄を張るエブ。その目はジードや手下たち同様に、気味の悪いもの見る目つきであった。


「俺は知らないけど、クロウラが大した魔法使いなのは分かるぜ。これなら野営も安心だな」


 リディオが一人ウンウンと頷く。夜は邪神の時間だ。昼間は現れない怪物がうろつくことも多い。

 これに対処するには、炎を焚き身を守るか、魔法による神聖な結界を張るかである。


 魔法使いのいない場合、篝火(かがりび)を四隅に置いた陣地を張り、不寝番を立てねばならない。

 低位の怪物は炎だけでも近寄らないが、高位の相手となるとそうも行かない。炎などお構い無しで襲われる危険がある。


 火すら無い状況の場合は、木のうろや狭い穴に隠れて息を潜めるのが良いとされている。

 それはつまり、運良く見つからなければ生き延びることができるという意味だ。


「追加報酬を出すなら、荷物持ちもしてやるぜ?」

「そりゃ助かるな」


 リディオ以外は、死者に荷物を預けるなんて気味が悪くて仕方ないとばかりに眉をしかめておしまいだった。

 それが普通の反応だ。クロウラは「臆病者どもめ」と鼻で笑った。


 道なき道を一刻(2時間)ほどかけて踏破し、一行は荒地に踏み込んだ。この先はクジャン族の縄張りである。

 エブは腰に刺していた単眼鏡を伸ばした。これはドワーフの工芸品で、遠くのものを見ることができる道具である。


 非常に高価で、ならず者が持つには似合わない。

 扱いが荒いため傷だらけだが、利用に問題はないようだった。


「アニキ秘蔵の遠眼鏡だぜ? すげえだろ」

「仕事柄必要だもんな」


 エブたちをムスカ伯爵の密偵だと思い込んでいるリディオは、疑問にも思わず頷いた。


「居たぜ、ふむ。順調に進んでいるな。しかしアイツラすごい荷物だ」


 単眼鏡を覗き込みながらエブがうなる。彼の目には大きめの背負い袋を背負ったカルマと、軽装のメリル。そして引っ越しのような大荷物を一人で抱え込んでのっしのっしと歩くアガスが見えていた。


「あの荷物でこの先の難所を越えるつもりか? 子供連れで? バカじゃねえのか?」

「バカなんでさぁ、アニキと違って!」


 ツバを吐き捨てるエブ。ゲラゲラ笑うジードと手下たち。

 だが、クロウラとリディオは笑わない。


「わざわざ子供を連れてきていて、しかもすごい荷物を平然と運んでいる? ならばその子に秘密があるんじゃないかな」

「魔法使いか、あるいは子供に見えるだけの亜人だな。『荷役』か『怪力』……ブラサルファの魔法かもしれないぜ」



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