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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【冒険商人 カルマ・ノーディ】  第七巻

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その09 合流と強襲


 『ウツボ』とは浅瀬に生息するヘビによく似た肉食魚だ。岩陰に隠れ獲物を待ち、不用意に近付いた犠牲者は鋭い歯の並ぶ大きな口の餌食になる。

 ただ、今回近付いて来た相手は『紅蓮の蛇』。餌食になったのはウツボの方であった。


「チクショウ、こんなん卑怯やん! もう一人おるとかイカサマやろ!」

「せやなぁ、三人相手に七人がかりで負けてもうたら、それくらいしか言えへんなぁ」


 縛り上げられた七人の『ウツボ一家』。情報によると『一家』は三十人程の集団らしく、ここにいるのは一部だけ。

 彼らは黄色と黒のダンダラ模様のウツボの図案をマークにしていて、入れ墨を入れたり船にも掲げている。


「数が少し多いですね」

「ウチとアガスならそないに難儀せえへんよ」

「そんなリスクは犯せませんよ、キャロルさんに何かあったらどうするんですか…………と言っても、衛兵に頼むにしても証拠がなぁ……」


 『ウツボ一家』は上下関係が厳しいらしく、ちょっとやそっとの尋問では何も吐かなかった。何とか聞き出せたのはアジトの場所だけ。

 成金のグゼがとにかく怪しくても、何か悪さをしている証拠もない以上は衛兵に頼むことも難しい。


 キャロルは物言いたげにメリルを見た。しかし、彼女自身何が言いたいかは分からない。


「アジトに火ぃ点けるんはどない?」

「証拠も燃えかねないし、放火は犯罪です

。仕方ないのでカルマさんたちと合流してから考えましょう」


 とりあえずアガスを見張りに残して、メリルとキャロルでカルマの実家に向かう。

 二人並んで海岸線を歩いていると、前方から見覚えのある二人組が歩いて来た。


「あ、メリルくん。いい所に! キャロル、メリルくんを借りるよ?」

「ウチのメリル様をどないするん……?」


「え? どういうこと?」

「いつもの冗談ですよ」

「へえ、ほほーう?」


 カルマが取り出したのは羊皮紙ではない不思議な皮の紙。そこに稚拙な筆遣いで書かれているのは、縞模様のヘビ。


「…………」「…………」

「黄色と黒のウツボらしい。ウツボって知ってる?」

「えらい見覚えある図案やねぇ」


 



「御用やでぇ、観念しぃや」

「抵抗すると痛い目を見るよ、こんな風に」

「あんぎゃー!? ワイの手がァー!!?」


 踏み込まれた『ウツボ一家』のアジトは、古い酒場を不法占拠したものだった。

 即座に武器を抜いた一人の腕が爆破される。むくつけき男どもが悲鳴をあげた。


 武装した衛兵たちに拘束される『ウツボ一家』のならず者たち。酒場の店主も拘束される。


「いました! 衰弱しています!」


 酒場の奥の部屋には七名からなる人魚が、拘束されて押し込められていた。全員子供である。

 身を寄せ合い恐怖に目を見開く人魚たち。下半身の乾燥がひどく、腫れ上がっている。


(わらわ)たちはウィ・ウィの頼みでお主らを助けに来た。しっかりせい! ほれ、真珠じゃ!」


 怒りに震える一同、最初に動いたのは姫君だった。

 用意してあった馬車に人魚たちを乗せ、魔法で治療しながら大急ぎで海へ。魔法の媒体としている真珠で、陸上でのこれ以上の乾燥は防げるものの、すでに炎症を起こしている部分も多く、人魚たちは予断を許さない状態だった。


「ウィ・ウィ兄さんは……」

「海で待ってる」


 ウィ・ウィはカルマたちを襲撃した人魚のリーダーである。氷に衝突した彼らはカルマたちに事情を説明していた。

 ちなみに、人魚は男女ともに上半身は女性的で乳房そっくりの器官がある。一見すると性別の判断がつけがたい。


 人魚の長い髪は水中ではタコのようにうねり推進力を生む。大きな乳房は振動を探知し、水中での会話に不可欠だ。


 人魚は離島の洞窟などで、家族単位で暮らしている。一週間ほど前、大人が留守の間に何者かが侵入し、住処は荒らされ子供たちがさらわれたのだという。

 そこに現れた『親切な情報筋』が、特定海域を行き来する船が怪しく、人魚の密輸をしているという噂を聞きつけてきてくれたのだ。


「え、怪しすぎません? なんで信じたんですか??」

「だよねー」


 その情報筋こそが『ウツボ一家』であり、もちろんマッチポンプで、なおかつセージスク卿に打撃を与える陰謀だったのだ。


「人魚の子たちを、船主さんと海のみんなを、ついでに(とと)様を……許せへんね……」

「ちなみに沈んだと思ってた船と船員のみんなは人魚に拘束されてたけど元気だったよ。そろそろ帰ってるんじゃないかな?」

「え、ホンマ!?」


 『ウツボ一家』は狡猾(こうかつ)で、残忍だった。人魚たちには「悪党は嘘をつくから捕まえても意味がないから船ごと沈めてしまえと指示をしていたのだ。

 人魚は『ウツボ一家』を信用していたが、それと残虐行為は話が別である。


 捕まった船は魔法で隠されて、水中で固定されて動かせず。船員たちは家に帰ることも連絡もできずにソワソワしていたが、人魚の住む洞窟のある孤島で元気にサバイバル生活をしていた。

 さらわれた人魚たちを救出し、船と船員も帰ってきた。残る問題は。


「おれたちゃグゼのおっさんに頼まれただけや!」


 『ウツボ一家』の親分は不潔で粗暴そうな大男だった。顔はウツボというよりゴリラに似ていた。


「人魚をさらったのも?」

「そうや!」

「干物をわざとダメにして悪評流したのも?」

「そうや!」

「人魚の子を殴って真珠を奪ってたのも?」

「そ、そうや!」


「その真珠を、故買屋でこっそり売り払っていたのも?」

「え、ええと……」


 それ以上の尋問は不要だった。カルマは衛兵に指示を出し、衛兵たちはならず者どもを監獄へぶち込んだ。



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