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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【冒険商人 カルマ・ノーディ】  第七巻

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その04 関所とシートラン


「国境を越えるならば我々の名前を出してください」


 旅芸人たちは進行方向が逆だった。感謝を重ねる彼らと別れて、カルマたちはシートラン国境の関所へ。

 基本的に、関を越えるには手形が必要である。貴族ならば自分の紋章があれば問題ない。平民ならば役所に頼んで手形を発行してもらうのが一般的だ。


 カルマたちは今回、オットー村で付き合いのあるポルコロス伯爵とカーチスドン伯爵に頼んで、複数の手形を用意してきた。一枚よりも二枚のほうが信用もされるという判断である。

 あるが、遠く離れた伯爵の名など知られていない。関所の役人は胡散(うさん)臭そうに手形を確認した。


「盗品じゃあないだろうな?」

「もちろんですよ、そういえば旅芸人の……」


 一座の名前を出したところ、役人たちの表情が変わった。彼らはオールガス帝国とシートランにまたがって興行をしているらしい。

 この関所の町にもしばしば訪れ、役人たちは彼らの芸を楽しみにしているそうだった。


「あまり大きな声でいいたくないけど……」

「言わぬが花やね」


 もちろん、旅芸人なりの出世術なのかもしれないが、役人を丸め込み名前だけで融通を利かせる挙動はあまりにも好ましからざる人物(スパイ)が過ぎた。

 とは言っても、証拠も無い以上は何も言うことはできない。カルマたちは微妙な気持ちで関を通ったのだった。


「シートランに入ったと言っても、別段代わり映えはしませんね」

「せやねぇ、もっと南下するとちゃうんやけど」


「今のうちにキャロルで慣れておくといいよ、みんなもっと開放的だから」

「カルマは紳士やねぇ」


 ゴリラとの遭遇以降、腕も脚も胸の谷間も隠しているキャロルだった。お互い皮肉で刺し合うのはいつものこと。

 それから一週間ほど南下すると、海が見えてくる。その頃には随分と気候も変わっていた。


「海を見るのははじめてなんですけど……想像よりもずっと臭いますね」

「なんじゃろうな、不思議で生物的な臭いがある。それにしても暑くて敵わん……」


 内陸出身のメリルと姫君は、海を見るのは初めてだった。オールガス帝国にも海はあるが、西部海岸地帯は治安が悪く、これまで足を伸ばしたことがない。

 実は貿易船に知り合いがいたら嫌だというカルマの個人的な理由だ。


「僕は懐かしいかな。波の音、潮の匂い、鋭い日差し、そして」

「肌もあらわな女の子……カルマはホンマ紳士の鑑やな」

「違うってば!」


 海辺の町では露出が多い。暑さ対策のためでもあるが、すぐに海に飛び込めるからでもある。

 下着姿も同然の服装が普段着であり、しばしばトップレスの女性も見かけられた。


 内陸とは気候が違うため、シートランは料理も異なる。肉よりも魚が好まれ、小麦ではなくイモとコーン、バナナが主菜として並ぶ。

 トマトとトウガラシをたっぷり使った赤い料理が特徴的で、その刺激的な酸味と辛味に姫君は閉口気味だった。逆に甘味にあふれた果物は気に入ったようで、干し果物の砂糖漬けを自分用に買い占めていた。

 

 シートラン出身の三人は問題なく、メリルも好き嫌いは無かった。


「そういえば船主とはなんじゃ? 地主みたいなもんか?」

「土地の代わりに船を貸し出すだけだね。沿岸部は船がないと仕事にならないから」


「丁寧な説明やなぁ。地主よりも町の工業組合(ギルド)長寄りなんよ。

 造船、整備、消耗品の手配、職業訓練、祭の幹事、揉め事の仲裁、喧嘩、相談、税収。仕事はぎょうさんある」


 地域の顔役という点では類似している。しかし、船主は地域の漁師や船主距離が近い。

 船の仕事は事故が起こるとまず助からない。その上人員だけでなく荷物と船を失うため、大損失となる。


 船主は船の老朽化や故障に注意し、整備不足による事故を減らすために日々目を光らせている。

 そして、体調不良や喧嘩などの人的理由の事故を無くすために、相談しやすく気安い仲であろうとする。人命に関わる事だけに、内陸の地主とは必死さが違うのだ。


 そんなこんなで一行はセージ領に入った。セージ領主セージスク侯爵こそがキャロルの父親である。

 領内は一見して特に荒れた雰囲気もなく、平和そのものといったところ。キャロルもカルマも少なからず安心して見えた。


「もしかしてアンタ、船主ん所のカルマやないかい?」

「おっちゃん、久しぶり。元気してた?」


 領内入ってすぐの宿場で、呼び止められたカルマ。相手は日焼けした男、この辺りの漁師だ。


「ホンマにカルマか! えらい久しぶりやなぁ。キャロルお嬢ちゃんと駆け落ちした聞いてたけど」

「してへんしてへん、カルマは旅先でええ人見つけたけんど、ウチはまだまだ独身を謳歌(おうか)しとるで?」


「え? キャロルお嬢ちゃん!? ウソやろ? べっぴん過ぎてどこぞのお姫様かと思うたわ」

「えらい正直者どすなぁ」


 『姫』は貴族の令嬢に対しても使用する敬称である。つまり、公爵令嬢のキャロルは紛うことなきお姫様であった。


「カルマはあれやろ? オヤジさんのこっちゃろ?」

「…………父さんにも何かあったのかい?」


 血相を変えるカルマ。男は少し困ったように視線をそらし、少し考えた後に重々しく口を開いた。


「オヤジさん、仕事中に倒れたんや。今もまだ寝込んどる」




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