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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【カルマ・ノーディ の物語】  第六話

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その01 五人目


「…………こわかったね」


 カクタスの感想に、メリアは頭を掻いた。そう言われるのも仕方がないだろう。

 これまで以上に悲惨な状況、あまりに危険な敵、そして味方の犠牲者。


「私もあまり好きなエピソードではありませんね。お父さんが少しも活躍しないのはいただけない」

「登場人物が多いとな」


 スィの感想に苦笑いのメリア。ある意味で彼女は分かりやすくていい。とにかく好き嫌いがはっきりしている。

 父親のことになると見境がないと言うかなんと言うか。だが、彼が重傷を負った五巻は好きだという。


「これまでのカルマとちょっと毛色が違うよな。それで実はな……これはカルミノさんの頼みで書いたんだ」

「会長の?」


 カルマのモデルとなった人物からの願い。そう聞いて食いついてきたのはコーとイウノ。

 特にイウノからすれば驚きだろう。カルミノ会長は、カルマを自分の単純な自伝ではなく読み物だと公言している。


 自分をカルマのような善人ではないとも明言しているし、制作にはほとんど関わっていない。口出しもしないと言っているのだ。


「ヤーロの戦いは、ほとんど事実だよ。アタシはあの場に居なかったけど、カルミノさんから聞いた話をほんの少しアレンジしただけ。

 『五人』は強行偵察に向かい、魔将(アークデーモン)を倒した。ヤーロは勇者認定をされず、未だに眠りの中にいる」


 酸鼻(さんび)極まる戦いと、凶悪無比な魔将。事実をできるだけねじ曲げないように書いたのならば、それはこれまでのカルマと毛色も違うだろう。


「小説と違う部分はいくつかある、例えばアベルは結局ヤーロを勇者として申請した。ホリィクラウン内部にいる邪神信仰者を(あぶ)り出すために利用した」

「待ってメリア様、『五人』? カルマ姫君エイベルにヤーロの四人と、誰か同行したんですか?」


 コーの言葉にメリアは頷き、少し考え込んだ。それを言っていいのか悩む表情。


「あ……別にいいのか。秘密にしなくても」


 今度は顎を撫でて、説明の仕方を考える。


「んん〜……少し信じ難い話なんだがね」

「たった四人、五人? で魔将(アークデーモン)を倒した話よりもですか?」

眉唾(マユツバ)モノの、嘘くさい妖怪の話なんだな、これが」


 妖怪と聞いて、一同が身を乗り出す。特に目を輝かせているのはヘンである。男の子は妖怪とか不気味なものが大好物なのだ。


「『五人目』は吟遊詩人なんだよ、本人たっての希望で小説には出さないで欲しいと言われててね。でも秘密にしろとは言われてなかった」

「ぎんゆーしじん?」


「詩歌や英雄譚を語ることを商売にしている方々ですね。一般的には英雄譚は本ではなく吟遊詩人から聞くものなのですよ」


 カクタスの言葉にスィが答えた。吟遊詩人を見たことがない彼にはイメージがつかないのだろう。


「それがね……チビで年齢も性別もわからない奴で、気持ち悪いことに英雄になる奴の運命の分かれ道にヒョイッと現れるんだ」

「もしかして名前は名乗らないし、フードのせいで顔もほとんど見せない。何百年も前のことを見てきたように話す詩人ですか?」


 イウノの言葉に、メリアは一瞬思考停止。だがすぐに何かを察した様子で哀れむように目を細めた。


「そうだよ」

「わ、私じゃないですよ! 例のエルフの子とか、修道院に時々顔を出すから顔見知りなだけで」


 そんな風に言われて、誰が納得できようか。その修道院にかつての英雄が居るなんて想像もできまい。イウノが過去作の主人公でこれからも特別な人生を運命付けられていると言われたほうが納得できるというものだ。


「詩人……『吟遊詩人に名前は要らない』とか言って名乗らないアイツが、五人目の同行者だった。

 ムカつく奴でねぇ、魔剣なしのアクリスより強いくせに、決して前に立とうとしないんだわ。必ず誰かのフォローとして戦おうとする。その上呪詛には強いし知識量も半端ない」


「なんで辞退したんです?」


 どれだけ優秀でも小説の中には登場しなかった。本人の希望というけれど。


「『吟遊詩人ほ脇役。僕みたいなのが存在していたら読者にはノイズにしかならないだろ?』だそうで。正論すぎてぐうの音も出ない。

 アイツを出したら説明しないわけにも行かないが、大筋には何も絡まないからな」


 ヤーロの顛末(てんまつ)を確認に来ただけならば、確かに作劇上必要はなくなる。


「ちなみに活躍したらしい。サメは鼻面を殴ると怯むそうだ。それを説明しながら血色サメを次々棍棒で対処して道を開いたんだと。

 小説では一匹だけだったサメだが、現実にはうようよ湧いて出たらしい。そんな上位眷属(グレーターデーモン)級をだぞ? わけがわからん」


 上位眷属は姫君の呼んだ白熊(ウェンディゴ)より強いが日緋色金(オリハルコン)のゴーレムよりも弱い。

 つまり詩人の実力は相当のもの。そこいらの達人と並ぶということだ。


「何よりも許せないのはカルミノさんへの態度だけどね。アイツ、人の顔見てなんて言ったと思う?

 『キミは英雄って器じゃないなぁ』だぞ!? ケンカ売ってんのか!!」


 激昂しながらも、メリアは心の奥でその言葉の正しさを冷たく理解していた。

 カルミノは、カルマと違って、カルマ以上に英雄ではない。


 英雄と呼ばれる人々は、人生の絶頂となるタイミングがある。

 ヤーロが魔将を討ち取ったようにエイベルが神聖ホリィクラウン法国を滅ぼしたように。


 トリスタンはそのエイベルを殺した。

 リディオは戦争で素晴らしい戦果を出し、平民から貴族に成り上がった。


 バロードは異世界侵略主たちから祖国を守ったし。

 ジンはジンで別の魔将を葬っている。


 英雄の英雄たるとさせるものに、運命的な何かがあるとメリアは感じていた。

 一時の熱情に浮かされるかのように、人生の絶頂に駆け上がるかのように進んでいく。そして勝ち取った者たちが英雄となるのだ。


 カルミノにはそれがない。


 ただ、英雄たちの近くにあって、共に歩み、着実に進んだだけ。

 ……………………だが。




 最も偉大なのはカルミノだと、メリアは心から信じている。




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