表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【冒険商人 カルマ・ノーディ】  第六巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/139

その10 目覚めと呪い



 カルマが目を覚ましたのは三日後だった。

 全身に傷、高濃度の呪いによる汚染、内臓にも多大なダメージ。三日三晩生死の境を彷徨(さまよ)った。


「う……エイベルとヤーロは……?」

「あはは、鍛え方が足りないんじゃないんですかぁ?」


 カルマ目覚めの第一声に、ほんの半刻(一時間)程度先に目覚めたエイベルが応える。エイベルも同様の状態であった。むしろ肉体の損傷は大きい位だった。

 普段から荒事をしているため、開いた傷がより大きかったのである。しかし、聖騎士として鍛えているため、体力もカルマより上だった。


「全く、ひやひやさせおって。逃げろと言うたのに、年長者の言う事を聞かんからこうなるのじゃ。麻痺や障害が残らん事を祈れよ馬鹿者どもが……ッ!」


 愚痴愚痴と文句を垂らしながらボロボロと泣き続ける姫君、手を握ってあげながら氷のような無表情で(にら)みつけるアクリス。


「目を離すとすぐに無茶をする。無理にでも着いていけば良かった」

「あはは。ごめんなさい」


 もしも、アクリスが同行していたら。結果はどう変わっただろうか。彼女の魔剣はどんな物質でも切り裂く。血色サメに手間取ることはなかったかもしれない。

 しかし、彼女の小さな体では魔将の呪詛攻撃に耐えるのは困難だ。耐えきれずに命を落としていた可能性が高い。


「カルマさんは、もうそろそろご自分が戦士ではなく商人だとご自覚ください」


 替えのシーツと包帯を抱えてに部屋に入ってくるメリル。姫君やアクリスが心配をしすぎて、素直に心配できなくなっていた。


「ごめんメリーくん……それで、ヤーロは?」

「……………………」


 重苦しい空気が部屋を包む。


「ヤーロは?」


 彼がいなければ、魔将を完全な状態で召喚され、この一帯は地獄の様相を呈していただろう。

 神聖ホリィクラウン法国と、オールガス帝国の連合軍をもって事態の収束にあたる必要があった。


 姫君も日緋色金(オリハルコン)ゴーレムの軍団を起動したはずだ。

 その上で、すさまじい犠牲が山と積まれる事になったであろう。魔将(アークデーモン)は国家レベルの災害であっま。


「魔将は死に際に呪いを放った。(わらわ)でも手も足も出ぬようなすさまじい呪いを。ヤーロは奴が生まれる前に殺したのじゃ。呪いを受けるのは当然じゃった」

「…………私の指輪は?」


 エイベルの問いの答えは、枕元にあった。どす黒く変色して、酷く(よじ)れた小さな残骸。

 魔除けの指輪だったもの。


 言葉を無くすカルマ、エイベルは悲しげに手を伸ばす。


「あはは……返すように、念押ししたんですけどねぇ……」

「亡くなったわけでは無いんですよ、ですが、その……」


 メリルが言葉を濁す。死んではいない。死んでないだけ。


「どんな呪いなんです?」

「言うなれば『百年継眠の呪い』。百年間目覚めることなく昏々(こんこん)と眠り続ける」


 それはある意味で、死よりも残酷な呪い。百年は長く、人の一生は短い。目覚めた時、ヤーロを知る者は誰一人この世に亡く、ヤーロの知る世界は何一つ残っていない。

 ただ一人、長命種である姫君だけがその定めの外にあるが、彼女とて、ヤーロと孤独を分かち合うことは不可能である。


 なぜならば姫君は、より一層の孤独の世界に住むものであるが故に。


「任せろとは言いづらいが、ヤーロが目覚めた時に何があったのか位は伝えておこう」

「お願いします」


 だからこそ、何もかも失ったヤーロを導くこともできるのだけれど。


「…………」「…………」


 重々しく沈黙するカルマとエイベル。カルマにとっては、ほんの一日程度の付き合い。

 エイベルにとっての彼がどんな男だったのかは、分からないけれど。


「ヤーロが言っていたね」

「…………」

「これからの時代に必要なのは、エイベルみたいな人だって」


 カルマの呟きに、エイベルが表情を無くす。言っていた。言っていたけれどそれは正確ではない。

 エイベルやカルマのような人だと、ヤーロは言ったのだ。


「エイベルが、世のため人のために自分を犠牲にできる人だから、そう言ったんじゃないか? 平和のために身を粉にして働ける人間だから……」

「あはは、それって自分もそうだとでも言うつもりですかぁ?」


 姫君の言う『二人が似ている』をエイベルは皮肉った。自分に変な言いがかりをつけると、お前にも跳ね返るぞとばかりに釘を刺す。

 しかし、その言には普段ほどの切れ味がない。だからカルマは苦く笑って(かぶり)を振るだけ。


「いや、僕にはそんな偉大さはない。僕はもっと狭い範囲しか、手の届く範囲しか助けられない」


 エイベルの目付きが鋭くなる。その横でアクリスが小さく微笑む。


「僕らが似ている点は、世の中の……世界の無常に対して、立ち向かう所だよ」

「あはは、馬鹿じゃないですかぁ?」


「バカなんだよ。僕も、君も。世の中の仕組みに心から苛立ってる。僕は戦争を憎んでいて、君は君で我慢ならない何かに復讐しようとしている」

「…………」


 エイベルは否定しなかった。ただただ、乾いた笑顔の下に苛立ちを募らせた。


「百年後、彼が目覚めた時……」

「あはは。私の理由はもっと身勝手で、反社会的で、人道に反したものですので」


 エイベルは微笑んで拒絶した。

 いつもの乾いた笑みだったが、ひどく揺らいで見えた。


「でも結果的に、ヤーロのためになるようなことになるかもしれませんけどねぇ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ