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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【冒険商人 カルマ・ノーディ】  第六巻

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その09 ダンスホールとアークデーモン


「あはは。この屋敷ダンスホールがありますねぇ」

(わらわ)はダンスは得意じゃぞ」

「大型の眷族(けんぞく)を呼ぶならば、広い場所が必要でしょぅ?」


 立ちはだかる闘鬼(ヘリオン)を蹴散らしながら、カルマ、姫君、エイベル、そしてヤーロの四人はダンスホールに足を向けた。

 充満する赤い『霧』から勝手に湧いて出た下級のヘリオンは、ヤーロの剣技と魔法攻撃で簡単に倒せる。


 しかし、アレはどうだろうか。


 ダンスホールの入り口には、牛、熊、猛禽(もうきん)の頭を持ち、四本の腕に剣、矛、斧、しゃれこうべを持った中級のヘリオンが立っていた。

 体長は2.4メルト、ヤーロの1.5倍である。


「補助頼む!」


 一切臆する事なく突進するヤーロ、その背中を追い越して、カルマの放った火花が空中を疾る。


(インレ)の慈悲、刃による決別。戦乙女による抱擁(ほうよう)(よこしま)なるものに眠りを与える。永遠(とわ)の……」


 姫君の詠唱。『魔剣』は一度しか効果がないものの、刃による威力を倍加する強力な魔法だ。

 ここで使われたのは、その『魔剣』の効果を持続時間間続ける高度な魔法『死神の行進』である。


 三つの顔面全てを爆破されたヘリオンが怯む、それでも突き出されたしゃれこうべから放たれる紫色の炎。呪詛の炎。


「『魔祓い』」


 エイベルの魔法により霧散する呪詛。ヤーロは破邪の剣をヘリオンの胸に突き立て、横に振るった。

 彼本人の怪力と、魔法の補助、破邪の剣。それらが合わさって中級眷族(けんぞく)と言えども瞬殺であった。


 ドアを蹴破って突入。外の戦闘員で待ち構えていた複数の闘鬼(ヘリオン)が殺到する。

 ダンスホールはひどい有様だった。床という床、壁という壁が血で赤く塗られ、胸の悪くなるような悪臭が立ち込めていた。


「『矢避け』」「『龍の加護』」「『氷柱顎(フロストバイト)』」


 飛んできた射撃武器はエイベルの魔法が防ぐ、強力な補助効果を受けたヤーロの肉体が炎をまとった。

 一瞬遅れて、地面から生えた巨大なつららがヘリオンたちを串刺しにした。


 つららの列柱を駆け抜けて、ヤーロが炎と光の軌道を残す。武器を構える邪神信仰者ども、ホールの中心に立つリーダー格が声高に祈りを捧げる。

 明らかに儀式は最高潮。


「止めろ!」

「そっちが止まれ!」


 邪神の魔法で闘鬼(ヘリオン)と化す邪神信仰者たち。六対一、荘厳(そうごん)なる死の舞踏。

 輝く刃が弧を描く度、闘鬼が真っ二つになって吹き飛ぶ。一瞬遅れて飛び込んだカルマと姫君の魔法が道を開く。


 鬼神もかくやの形相で、ヤーロが儀式に突進。


 する直前。


「我が身を糧に降臨せよ! 『戦争の赤い星』か第二の将、『血河の錆星』―――ッ!!」


 魔法陣が泡立ち、ぶちまけられ乾いていたはずの血液が渦を巻く。床から突然飛び出したのは巨大な口。海に住む肉食の大型魚類、サメのそれであった。

 乾いた血の色のサメは邪神信仰者のリーダーを一呑みにして、床をまるで液体のように泳ぎ、跳ね、ヤーロに向かった。


 破邪の剣を鼻面に叩きつけるヤーロ、手傷は与えたが倒しきれない。床に逃げ込む血色サメ。


「馬鹿な……正確に名を呼びおったぞ!!」


 姫君が悲鳴をあげた。ここではその名を記すことはできない。邪神や、固有名称を持つ高位の眷属は、その名を知るだけでも災いを招き入れる。

 『虚無守り(ヌルガード)』である姫君は耐性がある。それこそ四大邪神の正式名称すら知っていてもおかしくない。


「撤退じゃ!! 命懸けで逃げよ! 悪魔将(アークデーモン)など生身で相手をしてはならぬ!!」

「このサメ程度なら!」

「それは『羽虫』じゃ!!


 血色サメは問題なく倒せる。ヤーロの言は正しい。破邪の剣で傷を負わせた。つまり殺せると言う事だ。

 だが姫君は(かぶり)を振るう。冷や汗を浮かべながら見たことがないほどに取り乱して。


「サメは魔将の気配を察知しておこぼれ狙いで現れただけの雑魚じゃ!!」

「…………あれが?」


 飛び出してきた血色サメ、カルマが強力な炎の魔法を叩きつける。表皮を焦がしながらも喰らいかかるサメをヤーロが迎撃。押し負ける。

 明らかに中位の闘鬼(ヘリオン)よりも強い。高位眷属レベルだ。


《るーるーるー》


 全員の頭の中に、金属が軋むような『声』が響いた。


 次の瞬間カルマは頭の中で何かが千切れるような痛みを感じた。ボタボタと鼻血がこぼれる。隣でエイベルも同じ症状。

 耐性の高い姫君と、魔法で守られたヤーロは無事。


《るーるーる、るーるーるるー》


 床が、乾いた血が波立ち、魔法陣のあった場所から乾いた血の色の骨格がせり上がってくる。

 いや違う。そいつはたった今、この瞬間に周囲の血と死骸を素材にくみ上げられつつあった。


 人によく似た頭蓋骨(ずがいこつ)ながら、巻き貝のような角が二対四本飛び出ている。眼窩(がんか)も四つ。

 そして恐ろしい事にその頭蓋は、人間のそれより遥かに大きい。


《るー。るーるーる、るるーるーるるー》


 顎骨がカタカタ動き、奇妙な旋律が脳を傷付ける。カルマとエイベルがよろめく。ドロリとした血が両目と耳朶から流れ落ちた。


「二人とも寄れ! 結界を……」

「あはは」「だめだお姫様」


 即答する二人、その視線の先には破邪の剣を杖にして耐えるヤーロ。襲いかかるサメを紙一重で避ける。


「魔将がまだ形になる前なら……!」


 カルマの魔法がヤーロに剛力を与える。過酷な環境に耐える守護を、邪悪を寄せ付けない炎をまとわせる。


「防御なんかしてたら間に合わなくなりますよぉ」


 エイベルの魔法が邪気を祓い、ヤーロの周囲を清浄化し、聖なる守護を強化する。


 その代償として、二人の肉体に無数の傷が走る。魔将の『歌』のような呪詛を受けて古傷が、完治していたはずの傷が開いているのだ。


「そんな所ばかり! 馬鹿者どもが!!」


 姫君が血を吐くように叫び、可能な限りの補助をヤーロに重ねた。






 かくして、勇者ヤーロの運命は成就した。



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