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冒険商人 カルマ・ノーディ の物語  作者: 運果 尽ク乃
【冒険商人 カルマ・ノーディ】  第一巻
1/139

【 プロローグ 】


 考えてみれば、それ程ひどい暮らしではなかったとも言える。


 お屋敷から出ることは許されないが、それは飢えることも凍えることもないという事だ。

 服も寝床も清潔で、昼間はニコニコしながら命令に従っていればいい。


 夜は毎晩男爵様に呼ばれてひどいことをされるが、それでも、飢えて凍えないための対価みたいなものだ。


 そうずっと思っていたし、ずっとそのままだとも思っていた。



 それがある晩、一変した。



「やめろ貴様! 私を誰だと思っているんだ!」

「違法薬物の密輸と奴隷売買で私腹を肥やしとったクソ野郎やろ? 公爵殿も伯爵殿も、口裏合わせて自分のことなんて知らん言うとったで、もうすぐ国軍も来るんとちゃうん? 知らんけど」


 男爵様が、屠殺(とさつ)の豚みたいな悲鳴をあげる。

 突き放すような女の声、大陸南部にある海洋大国シートラン訛り(なま)り。


 違法薬物。奴隷売買。男爵様は悪いことをしていたのか。ぼんやりと考える。興味は薄い。

 この先どうなるかも分からない。どうでもいい。


「や、やめろ! おい! 勝手なことをするな!」

「命令できる立場やないんとちゃう? 帳簿と隠し部屋の鍵はどこやろな〜」


「それを見つけてどうするつもりだ!?」

「扉見っけ……って、なんなん!?」


 ガチャガチャと音を立てて扉が開く、光が差し込む。

 覗き込むオレンジ色の瞳。そこに燃える激しい怒り。


兎人(エリルフレア)までおるやん! この腐れ外道がッ」

「亜人を奴隷にして何が悪いッ、あ、さては貴様泥棒か奴隷商人だな!?」


 何かを打ち付ける音と、男爵様の悲鳴。


「言うに事欠いてナニ言うとんねん。僕のことはそうさなァ」


 女は、あろうことか男爵様を足蹴にして、薄くなった髪を掴んでこう言った。


「冒険商人……冒険商人とでも呼んだってや!」


 

 それが、最初の記憶である。


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