久遠ひさめの独占欲2
夕焼けの下。
私と彼女は、神社へ続く長い階段に並んで座っていた。
風がぬるく吹いて、肩にかかった髪をそっと揺らす。
石段の冷たさが、制服越しにじんわりと伝わってくる。
私は、ぽつりと呟いた。
「……ごめんね」
その言葉に、転校生、芹沢優奈は首を横に振る。
彼女は、私の顔を見ながら、平気そうに笑って言った。
「ねえ、本当に吸血鬼なの?」
心臓が、ひとつ跳ねた。
たった一言だったけれど、胸の奥を強く突かれたようだった。
やっぱり、この人も。
この人も、私を拒絶するのだろうか。
だって。
だって私は。。
「わからないの」
声が震えた。
「もしかしたら、本当に吸血鬼かもしれないから」
血の病気。
朝を怖がる心。
人と違う身体。
言われてきた言葉の数々が、心の中に根を張っていた。
もし吸血鬼なのだとしたら人間に嫌われて当然だ。
そう思っていた。
私は、俯いたまま彼女の返事を待った。
けれど、優奈はあっさりとこう言う。
「別に吸血鬼でもいいんじゃないかな」
唖然とした。
それと同時に怒りがわいてきた。
私が。
私がどんなに悩んできたのか。
理解もしないで。
そんな簡単に。
気づいたら、声が上ずっていた。
「な、なにが……いいのっ」
けれど、彼女はまっすぐ私を見てこう続けた。
「自分が何かなんて、関係ないよ」
「自分が、どんなことをするのかのほうが大事だと思うの」
彼女は熱を帯びた声で続ける。
例え吸血鬼でも。
正義の行いをしていれば。
それは正義のヒーローなんだよ、と。
まるで、自分のことのように語るその姿は、凄くまっすぐで。
「吸血鬼なのに、ヒーロー?」
私は思わず口にしていた。
それは、今まで想像したことのない言葉だった。
ヒーローなんて、自分とは真逆の存在だと思っていた。
それなのに、彼女は迷いもなく言ってのける。
「そう、吸血鬼の力を使って悪を討つ、影のヒーロー!」
そう言って、満面の笑みを浮かべた。
「格好いいでしょ」