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独々々々占欲  作者: るの
レギオン
14/24

桐生夜月の独占欲1

───彼女はストーカーだった。

登校中の優奈さんの日課は、通学路の途中にある小さなお地蔵さまに手を合わせることだった。

時折、自家製のお菓子を供えることもある。

少し焦げたそのクッキーは、きっと彼女の手作りだ。

もったいない、と私は思う。

だから私は、誰にも気づかれぬようにそれを手に入れる。

昼休み、屋上でこっそりと食べるのが至福の時間だった。

ああ、優奈さん。

私の、幼馴染。

私の、すべて。

あなたのことなら、なんでも知りたい。

本当に、なんでも。

だから、学校に盗撮用の小型カメラをいくつか設置した。

数日もすれば、今まで知らなかった優奈さんの姿が。

日常の隙間にある彼女が。

きっと、見えてくるだろう。

楽しみだった。

とても。

なのに。


───彼女は収集家だった。

体育の時間、誰もいない教室にそっと忍び込む。

優奈様の机の引き出しに手を伸ばす。

狙いは筆記用具。

もちろん、彼女が愛用しているもの。

悲しむ顔は見たくない。

だから、代わりに新品の同型を置いておく。

これで問題はない。

完璧だ。

シャーペンの軸に、そっと指を這わせる。

消しゴムの端に鼻を近づけて、香りを確かめる。

筆箱の内側に残るわずかな体温の痕跡を、掌に封じ込める。

彼女が触れていたもの。

それだけで価値がある。

私のコレクションに加わるにふさわしい、清く尊い“遺物”たち。

私はお側にいることなど望まない。

それは身の程知らずの欲だから。

ただ。

彼女のものを、手元に置いていたい。

それだけで、私は幸せだった。

……なのに。


────彼女は優秀だった。

長身の生徒会長・鷹取は、今月に入ってすでに五件目となる違反者を教師へ引き渡した。

今回の犯行は盗撮および窃盗の現行犯。

騒ぎになる前に、すべては粛々と処理された。

問題行動はすべて教師陣とのみ情報共有され、他の生徒には一切伝えられない。

それが、彼女の流儀だった。


廊下の影。

校舎裏の柵。

空き教室の隅。

目立たない場所で、異常は静かに広がっていた。

まだ捕縛には至っていないが要注意人物としてマークしている生徒は他にも複数いるのだ。

捕らえた“彼女”たちは、口をそろえてこう言った。


「芹沢優奈に、恋をしているんです」

「優奈さんのためなら、何だってできる」

「彼女に微笑んでもらえるなら……」


その語り口は、妙に整っていた。

個々に違う環境、違う人格、違う過去を持っているはずなのに。

どこか「同じ思考に汚染されている」ような。


鷹取の脳裏に、一つの言葉が浮かんだ。


《レギオン》


「我らの名はレギオン。我らは大勢なり」


新約聖書に記された、ひとつでありながら群体である悪霊の名。

同じ執念、同じ愛情、同じ歪みを宿した少女たちは、

まるでひとつの意思を持つかのように、優奈へと向かっていく。


鷹取は静かに立ち上がる。


「一度、芹沢優奈に話を聞きに行きましょうか」


副会長に目をやると、彼女は無言で頷いた。

そうして、生徒会長は後輩である少女のクラスへと向かった。


尚、当の優奈本人は。

この騒動の一切にまったく気づいていなかった。

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