再会の独占欲
「新しい学校、か……」
舞う桜の花びらを見上げながら、芹沢優奈は少しだけ緊張した面持ちで校門をくぐった。
東京の有名女子校「白鷺女子学園」
転校が多かった小学生の頃から、ようやく一箇所に落ち着いて通える高校生活。
そこに期待と不安が混ざり合っていた。
優奈には密かな目標があった。
それは「普通の学園生活を送ること」
ヒーローに憧れていた小学生時代は、気づけば誰かを助けてばかりだったが、中学に上がる頃にはその熱も冷め、普通の生活がいいと心から願うようになった。
「普通の友達を作って、普通の学英生活を送るぞ!」
そう意気込んで教室のドアを開けた瞬間。
「優奈ちゃん……!?」
多くの生徒がにぎわう教室の中、一人の女の子が声をあげ立ち上がった。
ふわふわしたセミロングの髪を揺らし、瞳には驚きと喜びが入り混じった表情をしている。
優奈は思わず胸が高鳴るのを感じた。
なぜなら彼女こそ、かつて優奈がピンチを脱する手助けした少女の一人だったからだ。
「美咲……ちゃん?」
その子の名前は、佐藤美咲
懐かしい記憶が一気に蘇る。
小学校時代、引っ越し先の学校で偶然出会い、二人でヒーローとしてある人のピンチを救った。
まさか、ここで再会するなんて。
美咲は頬を赤らめながら、ゆっくりと歩み寄ってきた。
その視線には、ただの再会を喜ぶ以上の感情が込められていた。
「優奈ちゃん……ずっと会いたかったんだよ」
そう言って、彼女は優奈の手をぎゅっと握りしめた。
その手は少し震えていて。
その瞬間、優奈は何かが「普通」では済まないことに気づかされた。
次の日から、優奈は次々と昔助けた女の子たちと再会することになる。
どの子も優奈に対して強い想いを抱いているようだった。
みんなが一様に彼女を「優奈ちゃん」「優奈」と親しげに呼びかけ、距離を詰めようとしてくる。
「また会えてうれしい……優奈さん」
「優奈がいるなら、私は何でも頑張れる」
彼女たちの視線はヒーローに抱く憧れの目ではなく、もっと。
……もっと深い感情が込められているように感じられた。
休み時間になるたびに、かつて助けた彼女たちが優奈のもとに集まり、独占しようとする光景が繰り広げられる。
誰もが優奈を自分だけの特別な存在にしたいと願っているかのように……。
「優奈ちゃんは……私だけのヒーローなんだから」
かつて無邪気に憧れていたヒーローごっこが、今こんな形で戻ってくるとは思いもしなかった。
女の子たちの視線や行動は、日々重く、そして切実なものになっていく。
彼女たちはただ友達としてではなく、まるで「特別」な関係を求めるように優奈を見つめていた。
彼女の行動一つひとつが、彼女たちにとっての「心の支え」や「特別な思い出」として刻まれている。
そんな中、美咲が彼女に尋ねた。
「ねぇ、優奈ちゃん……もし私が危機に陥ったら……助けてくれる?」
その言葉に、優奈は自然と笑みを浮かべた。
「もちろん、助けるよ。だって、私はあなたの"友達"だから」