【後日談】邪竜の息子は、愛を乞う花嫁と愛を貪り喰らう
大変……大変申し訳ありません……!! 本話、独立させた時に、本編と一緒に投稿するのを、完全に忘れておりました……!!
本話を覚えていて&この話のことをご質問してくださり、本当にありがとうございますっ……!!
今後も何か気になったりしたら、どんどん聞いてください!! ついでに変なところあったら、教えてください!!
島田の作品は、読者の皆様のご協力で成り立っていますので……。たくさんの誤字のご指摘とか、ね……(遠い目)。
改めて、今後とも本シリーズをよろしくお願いいたします!!m(_ _)m
リーシャという少女の説明をするとしたら、彼女はまさに可哀想な少女であるという言葉に尽きるだろう。
倫理観を失くした常識を逸脱した研究者によって肉体を改造された改造人間であり、決して少なくない実験体の屍の上に降り立った唯一の成功例。
しかし、彼女は副作用による日常的な激痛と精神異常に侵されていた。
徐々に人間ではなくなっていくその感覚は、まさに地獄でしかなかっただろう。
人としてのカタチを失い、人造兵器と成していく。
誰かに愛して欲しいと願えど、その手を取る者はおらず。
きっと、そのままゆけば……醜い化物としての終わりしかやってこなかっただろう。
しかし、彼女の運命は変わった。
彼に出会ったことで、変わってしまった。
出会ったことを嘆くべきなのか?
それとも出会ったことを喜ぶべきなのか?
その答えは誰にも分からない。
それでも、言えることが一つ。
愛を乞う化物の異常性を、邪竜の息子は愛したのである。
◇◇◇◇◇
《破滅の邪竜》が生み出した箱庭。
そこに唯一ある建物──邪竜の屋敷にて。
キッチンで紅茶を入れていたマキナは、ふとあることを思い出す。
そして、キッチンの入り口で紅茶のおこぼれを狙っていたゼイスに視線を向けた。
「そういえば、ゼイスは何を司ることにしたんですか?」
ゼイスは壁に寄りかかったまま、金と菫色の瞳をパチパチと瞬きさせる。
そして、その美しい顔を不思議そうにさせながら首を傾げた。
「何をって?」
「教えたでしょう。我々竜は何かしらを司るモノだと」
マキナは呆れた様子で言う。
竜は何かしらを司るモノであり、それに連なるあだ名を得ることでその存在性を安定化させるのだ。
ゼイスの父であるラグナは破滅──あだ名は《破滅の邪竜》。
マキナが司るのは幻──あだ名は《迷霧の幻竜》。
今だに眠りの中にいるマキナの主人ミスティは、憎悪──《憎悪の邪竜》。
存在性が安定することで竜の巨大な力も安定する。
そのため、竜にとって名というモノはとても大切だ。
基本的にそのあだ名は親から子に受け継がれたり、自身で定義したりするもの。
しかし、ゼイスの父である《破滅の邪竜》ラグナは自身の花嫁以外は、実の息子であろうと興味を持たない。
ゆえに、ゼイスは自分であだ名を決めることになるのだが……。
「今だに決まっていないようだったら、無理やり決めてしまおうと思いまして」
「…………力が暴走したら困るから?」
「えぇ」
目が笑っていない冷たい笑顔を浮かべるマキナに、ゼイスは背筋をぞくりっとさせる。
そして、彼の今の行動基準を思い出して、そんなことを言い出した理由を察した。
「ミスティお嬢様の安眠を妨げるモノは排除しませんと」
今だにあだ名が決まらず、力が暴走するような事態になったらミスティの眠りを妨げることになる。
そんなの、彼女の忠実な下僕であるマキナには耐えられない。
下僕への褒美のために眠りについてくれるような慈悲深い主人なのだ。
ゆえに、マキナは彼女の安眠を維持するためならばどんなことでもするつもりなのだろう。
それこそ…………自分が育てたも同然のゼイスを、主人のためならば処分することも躊躇わずに。
ゼイスは〝自分を育ててくれた人もちゃんと壊れているのだなぁ……〟と思いながら、苦笑する。
そして、肩を竦めながら答えた。
「安心してよ。ちゃんとあだ名は決まってる」
「おや、そうでしたか。なら構いませんよ」
マキナの笑顔が冷たいものから柔らかなものに変わり、ゼイスにティーカップを二つ渡す。
ゼイスは何も言わずとも、自分の花嫁の分も用意してくれる彼に「ありがとう」と感謝の言葉を返してから、キッチンを後にした……。
◇◇◇◇◇
天蓋付きのベッドの上で、すやすやと穏やかな寝息をたてながら眠る花嫁の姿。
自室に戻ったゼイスはベッドサイドに置かれたテーブルの上にティーカップを置いてから、ベッドに腰掛け、彼女の艶やかな黒髪を撫でた。
「あだ名、かぁ……」
そう呟きながら、彼女の寝顔を見つめる。
今だに思い出せる自身のあだ名を決めた時のこと。
ゼイスは薄っすらと笑みを浮かべながら、自身の定義をした日のことを鮮明に思い出した………。
彼があだ名を決めたのはリーシャが家族ごっこを始めた頃だった。
その頃のゼイスは少しばかり、荒れていたとも言えるだろう。
彼女の本質は、愛を与えるのではなく、愛を得ようとすることであるのに……人間である時の記憶にあるように、家族に愛情を注ぐフリをする姿がとても面白くて、とても気に食わなかったのだ。
リーシャは子供を愛していない。
なのに、彼女の記憶にある普通は親が子に愛情を注ぐものだと思って、甲斐甲斐しく世話をする。
最終的には妻の気が済むまで遊ばせてやるのも夫の甲斐性かと思い、リーシャの好きにさせていたが……。
家族ごっこを始めた当初に、自分だけを愛しているのに、他人を愛するフリをするリーシャに腹ただしさを覚え、彼女に酷いことをしてしまったのはいい思い出だろう。
しかし、あの一件があったから彼は自分の本質を知ることができた。
いや、ゼイスもまたリーシャと同じだったのだ。
それに気づいていなかっただけ。
父と母は互いに互いがいれば完結する、二人だけの世界にいた。
マキナや淫魔の双子エイダ・エイスが親代りだったが、それは邪竜の息子だから育ててくれていたに過ぎない。
ゼイスはただ自分だけを愛してくれる人が欲しかった。
ゼイスも誰かに愛してもらいたかった。
彼もまた、愛を乞う竜だったのだ。
彼が司るのは────〝渇愛〟。
ゼイスは、柔らかく包む込むような穏やかな愛を。
濁流に飲まれるような激しい愛を、求めている。
そして、それは彼の花嫁も同じ────。
「…………きっと、俺は愛を乞う花嫁であるお前に出会えなかったら……幸せになれなかったよ。リーシャ」
ゼイスはそう呟いて、眠るリーシャの額にキスをする。
永遠に互いの愛を貪り喰らう──《渇愛の邪竜》にとって〝幸せな夫婦〟になれたことに喜びながら、笑顔を浮かべる。
昨夜はかなり無理をさせてしまったが……きっと今夜も深く互いを喰らい合う夜になるだろう。
彼の美しい笑顔には、とても飢えた獣のような獰猛さが滲んでいた。




