邪竜の息子、愛を乞う花嫁と共に生きる。
以上、完結になります。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
明日からは本編では番外編扱いだった淫魔と堕天使の話を新規投稿しますので、お楽しみに。
では、よろしくどうぞm(_ _)m
海が見える、港町。
朝日が差し込むその部屋で、ゼイスはゆっくりと目を覚ます。
彼の腕の中には、産まれたままの姿で眠りにつく愛しい花嫁。
ゼイスは頬が緩むのを感じながら、リーシャの額にキスをした。
(ここにも十年ぐらいは住んだし……そろそろ引越した方がいいな)
リーシャをノヴィエスタ王国から連れ去って早百年と少し。
風の噂で聞いたのだが、戦争終戦が締結された後──……国王と研究者、あの五人は処刑されたらしい。
前の二人は分かるが、まぁ……あの五人はゼイスの所為だとも言えるだろう。
彼が人々の心を、思考を誘導しなければ……生きられたかもしれない。
可能性の話をしなければ、違った結末があったかもしれない。
軽い刑で済んだかもしれない。
しかし、最終的な決定をしたのはゼイスではなく、あの場にいた人々だ。
もしも、あの場にいた者達が……あの五人が生きていても国が滅ばない可能性もあると理解していれば、彼女達は処刑されなかっただろう。
まぁ、ゼイスは処刑されようがされまいが、特に気にしていないが。
リーシャが望む普通の暮らしをするために、二人は様々な場所を渡り歩いていた。
それも当然だ。
人間のフリをして、リーシャの望む生活をしているのだ。普通の人々に紛れて暮らしている。
しかし、歳をとらない人間など、周りの人間から怪しまれるに決まっている。
だから、そうなる前に二人は違うところへ移動するのを繰り返していた。
百年と少し経てば、ゼイス達の子供だって産まれる。
ラグナ達の場合は長い時を有したのだが、ゼイス達は普通の人間が妊娠するのと同じ期間で妊娠した。
そして、産まれた子供は邪竜の血を引くことなく、ほぼ人間だった。
まさかと思い、ゼイスが彼女の身体を診察した結果……リーシャの改造された影響だということが判明。
子供達の方が先に死んでしまうという現実に直面したが……ゼイスとリーシャも、彼の親のように互いが隣にいればその他のことは些細なことだと割り切れてしまえる。
だが、先ほども言ったようにリーシャが思い描いていた普通の生活を演じているのだ。
ゆえに、普通の人間らしく。
成人するまでは子供を育て……その後は本人の好きにさせるという過程を行なっていた。
(…………そういえば……何人目かの子供が、どっかの貴族に入ったとか聞いたな。まぁ、関係ないけど)
今現在は、リーシャも妊娠していないし世話をすべき子供もいない。
二人っきりだ。
ゼイスだけを最愛としているのに、彼女は普通の真似事が好きらしい。
狂ったように、毎日、毎時間、ずっとずっとずっと愛してると愛してを繰り返すような化物なのに、普通の真似事をするのだ。
子供だって放っておいておけばいいのに、リーシャは自分の身を粉にして育てている。
そういう親の真似をしている。
子供を愛していないのに、親のフリをしている。
それが、リーシャの思い描いていた普通だから。
(………まぁ、リーシャがしたいことを俺はさせてやるだけだ)
ゼイスとしては他人も、自分達の子供も全部、煩わしいし、こうして二人っきりの生活を送るのが好みなのだが……リーシャが望むことは叶えてやりたい。
だから、彼は彼女の真似事に付き合う。
(どうせ、永い長い時間があるんだし。愛しい妻のために付き合うのが夫の務めだしな)
そうして、更に数百年後──。
ゼイスはリーシャを連れて、箱庭に帰る。
長い永い時間を得て、人間の真似事にリーシャが満足したからだ。
「お帰りなさい、ゼイス。いらっしゃいませ、リーシャさん」
変わらぬマキナの姿に、ゼイスは「ただいま」を。
リーシャは「これからよろしくね」と挨拶をする。
「あぁ、そうだ。マキナさん」
「なんですか?」
「実はこっちに帰ってくる時に、邪竜の血の先祖返りっぽい気配を感じたんだよね。俺とか父上は花嫁さえいればどーでもいいってタイプだから、放置してきたんだけど……なんか、箱庭にも影響ある?」
とても永い時間を経た結果、ゼイスとリーシャの血はかなりの広い範囲で、あの世界で生きる者達の血に混ざった。
まぁ、数百年間ずっと、普通の人間の真似事をしていたのだ。
そうなるのも当たり前だろう。
「おや……先祖返りですか。まぁ、この箱庭はラグナ様のお力で成り立ってますから、問題ないでしょうけど……邪竜の先祖返りだと人間の世界では生き辛いでしょうね。場合によっては保護してあげた方がいいかもしれません。少し様子を見てきましょうか」
「あぁ、そう?行ってらっしゃい」
そうして、邪竜の息子とその花嫁に入れ替わるように幻竜が箱庭の外へと旅立っていく。
その後、マキナがなんとなくその子の従者になったり、色んな事件に巻き込まれていったりするのだが……。
それは、また違う機会にでも──。