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邪竜の息子流、常識ハズレな復讐の仕方

 




「なら、お前達は何をしてくれる?」



 ゼイスの言葉がダンスホールに響き、静まり返る。

 意味が理解できていない四人は、涙と鼻水で汚くなった顔を彼に向けた。


「いや、正確にはどんな行動を持って今までのことを詫びるか、だな。だってそうだろ?お前らはたった一人の女に騙されて、惑わされて、踊らされて。冤罪でリーシャを処刑しようとした」

「それ、は……」

「つまり、罪は作り上げるものだと。お前達……王族と王族に取り入った上位貴族が、証明してしまった。つまり、王族が気に入らない者は冤罪で処刑されてしまうと証明したんだ」


 その言葉に、その場にいた貴族達は戦慄した。

 元々、貴族や王族の関係というのは共に民を守るという意思の元に成り立っている。

 つまり、互いに協力しなくてはならない関係なのだから、信頼がある程度大事になってくる。

 ある意味、一種の同盟とも言えるだろう。

 だが、今回の冤罪で簡単に処刑を宣告したという事実は……その信頼関係にヒビを入れるのに充分で。

 王族フーレンスの手で、養子とはいえ王族の婚約者となった貴族の子(リーシャ)が陥れられたのだと、証明してしまったのだ。

 王族が作り上げた冤罪で処刑が行われるような、そんな危ない協力関係など……恐がらないはずがない。


「しかしっ、我々はその女に騙されてっ……」

「なら、それこそアウトだろ」


 フーレンスの言葉に、ゼイスは呆れた顔をする。


「その女に騙されたってことは、女に簡単に転がされてしまうような凡人ってことだ。それに、女に騙されて処刑を宣言するような奴、余計に危険過ぎるだろ?女に騙されやすいってことは……例えば、悪い貴族がハニートラップを仕掛けて、お前達を操り、自分達が気に喰わない良い貴族を殺させようとするかもしれない」

「そんなことっ……ある訳がっ……」

「だーかーらー!お前ら現にその女の言う通りに動いてんだろって。もしもだが、その女の裏に他の国の王族がいたら?この国を奪おうとしておる貴族がいたら?そんな悪知恵働かせてる奴らをバックにした女が、お前達を籠絡して。将来、重要となってくるお前らを操り人形にしないなんて証明、できないだろ?だって、お前らはそれぞれ、将来はそこそこの地位に就くんだ。お前達を操れれば、国の中枢にだって潜り込める」


 そう……フーレンスは、王太子の……将来の王の補佐として。

 ツィードは王弟フーレンスの護衛騎士から騎士団長になる可能性が高い。

 クゥーファも伝統ある公爵家子息だし、アレクサンダーは次期宰相だ。

 ゼイスの言葉は、確かにその通りで。

 人々の心に、脳に、深々と……その可能性を刻み込む。


「もう一つの可能性として、自分に自信のある女があんたらを籠絡して国を手に入れようとするかもしれないだろう?そこの女が良い例だ。お前達を籠絡して、リーシャ排除しようとした。お前達、リーシャを殺したらそのクソ女と結婚しようとも思ってたんだろ?公的な夫となるのは王子だろうが……お前らの雰囲気から察するに、四人で囲うつもりだったんじゃないか?たった一人の女が国の中枢となる男達を侍らかせる……ほら、その女の目的は国を操るつもりとしか思えないだろ」

『……………』

「現にその女が着ている服は明らかに質の良い高い物だ。その女が買えるはずがない。ってことは、お前ら四人の内の誰かが与えたんだろ?だって、籠絡されてるから。お前達は既にあの女の手に落ちてるから。男が親しい女にプレゼントを贈るのが当たり前だから。その服を着れたのだって……裏を返せばお前達を利用してるのだと。子飼いの男にプレゼントを贈らせたのだと、考えられないか?」


 ゼイスの言葉はあくまでも可能性の話だ。

 しかし、彼の言葉は酷く……真実だと錯覚してしまいそうになる。


「もしも、その女がお前達の妻となった……可能性の話をしてやるよ」


 ゼイスは憂いを帯びたような雰囲気を纏いながら、悲しげな顔をする。


「大体、低い身分から高い身分になった奴ってのは欲望によって周りを巻き込んで滅んでいくもんなんだ。金、身分、性欲、食欲、支配欲……自分も同じだったはずの身分の奴らを嘲笑い、侮蔑し、搾取する。搾取されたらどうなる?そりゃあ、身分の高い奴らは豪華な暮らしができるが、下々の奴らは飢えて、痩せて、苦しんで。憎しみ、悲しみ、病気になって死んでいく。そうしていつかは国が狂う」


 ゴクリッと誰かが喉を鳴らす。

 ゼイスはゆっくりと、貴族達に視線を向ける。


「だってお前達貴族の暮らしは食べ物を作る者、服を作る者、使用人をする者……そういう下にいる奴らの仕事の上に成り立ってるんだ。生活の基盤を支えてくれてる人達がいなくなったら、貴族だって暮らしていけない。だって、自分達がやってこなかったんだから。まともに料理だってできないだろ?………いや、そうなる前に民達の暴動が先か。贅沢な暮らしをしていた者達が、怒り狂った民達に襲われる。その身に纏う美しい服も、宝石も。暮らしている屋敷も、家具も、調度品も。女に至っては純潔さえも。暴徒となった者達に奪われていくだろうな」


 か細い悲鳴と共に倒れる令嬢がいた。

 ゼイスの可能性の話は、いつの間にかその場にいる者達にとって……いつか来る未来の話になっている。



「だって、そうじゃないと生きていけないから。生きるためなら人はどこまでも残酷に。鬼にだって、化物にだってなれる。だって、人間というのはそういう欲深い生き物だからな。そうなると国が傾いていて。結局……滅びの道しか残らないんだよ」



 ゼイスは両手を広げて、にっこりと微笑む。

 そして、彼らに問うた。



「さぁ、どうする?今、この女は何が目的でこの四人を籠絡したのだろうか?贅沢をしたいため?この国を手に入れるため?それとも……この国を滅ぼすため?」



 その言葉は魔性だ。

 その場にある敵意を、彼女ナリーアへ向けるための。



「さぁ、騙された四人はどうする?今後も彼らは、この女のように誰かに騙されてしまうかもしれない。そうなったら国の中枢から……腐っていくぞ?」



 沈黙が満ちて数十秒。

 ゼイスはポツリっと聞こえた声に、頬を緩ませる。


「………………せ……」


 誰かの声が小さく響く。

 しかし、それは直ぐに大きな声に変わる。


「今すぐその五人を殺せっ!」

「国を滅ぼそうとする悪人を殺せっ!」

「殺せば、この国はっ……我々は無事だっ!」


 その場にいる者達の〝殺せ〟という言葉は雨のように、怒号のようにダンスホールに反響する。

 それを見てゼイスはクスクスと笑った。


「ゼイス?」


 リーシャは楽しそうに笑う彼に首を傾げる。

 ゼイスはそんな彼女の髪を梳きながら、笑顔を見せた。


「簡単に人心掌握されて面白いなって思ってさぁ〜」

「んー?」

「つまり、俺は全部もしもの場合や可能性の話をしたのに……皆、見事にそれを信じ込んでしまったなぁ〜と」


 ゼイスが語った言葉は、確かに可能性の話と前提していた。

 しかし、この場にいる者達はそれを信じてしまっていて。

 まぁ、信じるように……ゼイスは憂いを帯びたような雰囲気を醸し出したりしていたのだが、ここまで上手くいくと逆に笑えてしまう。



 殺意と、恐怖と、狂気に染まったダンスホール。


 醜い人間の本性。


 なんて面白いのだろうと思いながら、ゼイスはその矛先となっている五人を見つめる。



「………おい、あんた……どうするつもりなんだ」


 亜人達の長……獣人が代表してゼイスに聞いてくる。

 彼はワザとらしく首を傾げつつ、微笑む。


「どうする、とは?」

「この状況だ」

「さぁ?これはあくまでも人間の……いや、あの五人の問題だから気にしなければいいんじゃないか?俺は単に俺なりの復讐をしただけだしさ?」

「……………あんた、なり?」

「そう」


 ゼイスは笑う。

 仄暗く、冷え冷えとした瞳で……にったりと、不気味な笑みを浮かべる。



「俺は……《破滅の邪竜》の息子だから。俺は人間とは違う存在モノだから。破滅を、滅びを愛する存在だから。いつか滅びるがゆえに全てが、この世に生きる者達全てがどうでもいい。けれど、唯一無二で永遠に大切にすべき存在が《花嫁》なんだよ。花嫁のことだけは、リーシャに関わることだけは俺は冷静ではいられない。だって、そんだけ愛してるんだから。リーシャが死んだとしても離す気がないくらいに大切で愛おしい存在なんだから。そんな、俺の花嫁が殺されそうになったんだぜ?俺は俺のモノが傷つけられるのを許さない。例え俺が、リーシャが殺されるのを阻止したとしても、殺そうとした事実がある時点で、それ相応の報いを受けてもらわなくちゃいけないんだよ。だから、俺は復讐した。それにな?俺のモノを奪おうとする奴らには、地獄を見てもらわ(ふくしゅうし)ないと……な?」



 ぞくりっ……。

 亜人達はゼイスの狂気に、背筋が冷たくなる。


「父上は直接復讐したみたいだけど、俺はそんなことしない。だって、圧倒的な存在に殺意を向けられたら諦めてしまうかもしれないだろ?あぁ、仕方ないことなんだって。でも、同じ人間に殺意を向けられたら……絶望するだろ?だって、自分達可愛さにお前達を殺すって殺意を向けられてるんだから」


 …………狂ったように笑うゼイスは、やはり邪竜の息子なのだとしか言えない。



 残酷で、狂気的で……壊れている。



「俺はあいつらのあの姿を見たからもう満足してるし。後は人間が面白いようにするだろ」


 先程、リーシャに言っていた言葉あくいを自らの身に浴びている五人は、その殺意の密度にガクガクと震えていて。

 あのままいけば、いつか壊れるだろうということをゼイスは察する。

 しかし、それを止めるつもりはない。

 だって、とても面白いのだから。

 自分達の行動が、こんな結末を迎えたのだと……絶望する彼女達の顔は、とても面白いのだから。


「さてと。俺達はもう行くけど、ちゃーんと終戦してくれよ?じゃないと、今度はお前達が俺の相手になるかも」


 ゼイスの言葉に亜人達はビクリッと震える。

 それを見てゼイスは問題なさそうだな、と内心ほくそ笑んだ。


「じゃあ、愛しい愛しい俺の花嫁?お前が望むように普通の夫婦っていうのをしに行こうか」

「うん!」


 ゼイスはリーシャをお姫様抱っこして、歩き出す。

 その途中で、ハッと……彼はマキナ達に振り返った。


「手伝ってくれてありがとう。暫くしたら、リーシャを連れて箱庭に帰るわ」

「えぇ、分かりました。楽しんできて下さい、二人とも」

「またねっす!ジャン君、そろそろベッドに戻るっすよ!また爛れた日々に戻りましょーうっ!」

「またお会いしましょう、花嫁様。お帰りをお待ちしていますワ」

「怪我や病気に気をつけて下さい……って、エイダ!首を、引っ張らないで下さ……うわぁっ!?」


 影に溶けて消えたエイダとジャンを先に見送り、ゼイスとリーシャは互いに顔を見合わせる。

 そして……意味もなく、苦笑した。


「じゃあ、行こうか?俺の可愛い花嫁バケモノ

「うん!私だけの最愛の人!」



 ゼイスとリーシャは、彼が狂わせた人々を放置してその場から消え去る。

 マキナは、なんとなく……恭しく頭を下げた。



「以上をもちまして、復讐劇の第二幕を終わります」



 そう言い残して……マキナとエイスの姿も、その場から姿を消した。





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