邪竜の息子、箱庭を飛び出す。
【注意】作中、残酷表現&グロがありますので、苦手な人はお逃げください。
【お知らせ】
本作は元々、他作品の続き(※一応、続編として)に更新していたのですが……この度、独立させてシリーズ物の一作品として扱うことにしました。
なので、初めて読む方はシリーズを読まねば『意味が分からない!』となる箇所もあると思いますので、ご注意ください。
元々読んだことがある方へ。
こちらでもお付き合いくださり、ありがとうございます。
内容は変わってませんが、多少の加筆はしています。
楽しんでもらえると幸いです。
なお、本日19時に2話めが更新されます。
ではでは。長々と失礼しました。
改めて、よろしくお願いしまーす。
闇に包まれた小さな箱庭。
そこにある唯一の屋敷の前で……白のワイシャツに黒のズボンというシンプルな服装の青年が、自身を育ててくれた人達に笑みを向けていた。
右側の一部だけが蒼銀色に染まった漆黒の髪に、金色の瞳。
中性的な顔立ちの美貌は、どこか恐れさえも抱かせる。
彼の名前はゼイス。
言ってしまえば、《破滅の邪竜》と《邪竜の花嫁》の子供であった。
「気をつけてくださいね。人の世はこの箱庭と時間の流れが違いますから……どう世界が変わっているか分かりません。僕が教えたことが正しいとは限らないということを、忘れずに」
「わかってるよ。心配症だなぁ、マキナさんったら」
灰銀色の髪に金の瞳を持つ青年──幻竜マキナは少し呆れながらも笑う。
そんな彼の背後から瓜二つの色気溢れる双子の淫魔エイダ・エイスが現れ、ゼイスの頭を思いっきり撫でた。
「あははっ、仕方ないっす!君を育てたのは殆どマキナ様ですから!」
「そうよ?育てた子が旅に出るなら心配になるのも仕方ないでショ?」
そう、ゼイスを育てたのは殆どマキナだ。
だが、それも仕方のない話。
彼の両親……ラグナとミュゼは、お互いにしか興味がない。
偶然にも子供を授かったから産んだだけで、だからと言って大切な訳ではない。子供がいてもいなくても、ゼイスの両親が大切にしているのは、伴侶だけなのは変わらなかった。
そのため、ゼイスは親の愛というものを知らない。
しかし、それを彼はおかしいとは思わない。
何故なら……彼もまた、その性質──〝邪竜の血〟を継いでいるからだ。
邪竜は《終わり》に属する存在ゆえに、壊れたモノや狂ったモノを愛する。
復讐や、処刑など残酷なことを好んでいる。
世界を滅ぼすことだって簡単にできる。
《破滅の邪竜》の系譜は、世界に仇なす存在と言って過言ではない。
ゆえに、邪竜のことを普通の常識で考えるのは間違っている。
邪竜というのは壊れた竜達の中でも更に〝特別〟──普通の竜よりも、ぶっ壊れた存在だ。
そんな邪竜が壊れた花嫁を唯一として、ただ一人だけを愛している──……。
その異常性はただ純粋に、とても邪竜らしいというだけに過ぎない。
だから、両親の愛を与えられなくても構わなかった。
そんなモノがなくても、壊れた竜の血を引くゼイスは何にも気にせず生きてこれたし。
親の代わりに育ててくれたマキナ達だっている。
それに……。
ゼイスは自分で、自分だけの愛しい人を見つけに行けばいいだけの話なのだから、何も問題はない。
「行ってらっしゃい、ゼイス。無理はしちゃいけないからのぅ」
心の中で、旅の目的を改めて確認していたゼイスは、金髪碧眼の美青年──寄生虫パラサイトからかけられた激励の言葉に我に返り、顔を上げる。
親よりも親らしい顔つきで見つめてくる四人。ゼイスは彼らの顔を見て……にっこりと笑った。
「あぁ!行ってきます!」
至って普通の、親元から旅立つ子供のようだが……忘れてはならない。彼は邪竜の息子。異常性を保有する竜の一匹だ。
唯一無二の異常な花嫁を求める旅路は……きっと世界に狂乱を振り撒くことになるのだろう。
こうして……一匹の竜は箱庭を飛び出し、世界へと降り立つ。
これは、その後の物語──。
《破滅の邪竜》の子供が、花嫁を手に入れる物語である──。