プロローグ 2
僕は懐かしい夢をみた。
僕が長い眠りにつく前のこと、およそ500年前の僕の記憶だ。
豊かな資源と広大な土地、そして代々帝国の守護を司る魔法使いの存在を背景に、世界最大の力を持つアステリア帝国では、その豊かさとは裏腹に、過酷な階級社会と、それによる貧富の差が広がりをみせていた。
このような社会に生きる貧しい人々は皆、神への信仰心のみを頼りに生きていた。
そして貧しい人々の信仰心を搾取し、その力を強める神殿は、勢力のさらなる拡大を目的として、皇室を敵にとり戦争をはじめた。
僕の同胞である魔法使いたちは、同じ種族でありながら、皇室と神殿の対立により、それぞれに忠誠を誓う者たち同士で争いをはじめた。
魔法使いの介入によって戦火はさらに広がり、やがて数年後、魔法使いは共に壊滅し、そして戦争に巻き込まれた数多くの命が落とされた。
そこに現れたのが聖女だった。
突如としてこの世界に舞い降り、神殿の前に忽然と姿を現した聖女は、その聖力をもって息絶える直前の負傷兵を癒し、荒れ果てた大地を蘇らせ、枯れた草木に命を吹き込んだ。
信仰心の相違によって生まれた戦争は、聖女へのひとつの信仰をもって瞬く間に鎮まった。
アステリア帝国に平和が訪れた日、僕は同胞の亡骸を埋葬した。
そして僕は、世界で唯一の生き残りとなる”大魔法使い”として、長い眠りにつくこととなった。
そのまま僕はおよそ500年の年月を眠って過ごしていた。
眠っている間は、失った多くの同胞の魔力が僕の身体へ流れこんできた。
僕はただ心地よい眠りに身を任せ、膨大な魔力を自らの体内に蓄えていた。
そんな僕が目を覚ましたのは、あるいは目を覚ますきっかけが訪れたのは、あまりにも突然のことだった。
僕は再び夢をみたのだ。それは500年前の出来事ではなくて、あろうことか未来の出来事だった。
聖女によって平和が訪れた帝国に、ある日再び、異世界から少女が現れるのだ。
神殿の石碑に精巧に刻まれたかつての聖女と瓜二つの姿を持つ少女は、神殿や皇室によって”聖女の再誕”と祀りあげられ、聖女の存在に魅了された神官や貴族、そして皇族により、アステリア帝国は再び壊滅の一途を辿るーーー
火の海に包まれた帝国の光景を最後に、僕は勢いよく目を覚ました。
あまりの光景に、全身にかいた汗を拭って、僕は決意する。
「アステリア帝国の崩壊を阻止しないと……!」
そして僕は約500年の時を経て、知られざる大魔法使いとして、再びアステリア帝国の地に足を下ろした。