7話
魔力板レースは選手だけでなく、運営側も妨害工作をしてきます。コース上にそういった罠を大量に仕掛けているものだと彼女さんから教わりました。
この落石の罠は非常に大掛かりなもの。先に行った選手がこの僅かな時間に仕掛けるのには無理があります。つまりこれは公式が仕掛けた罠。
ならば攻略法が用意されていても不思議ではありません。一見無理に見えるこの状況でも。
「こう、こう、こう、こう、こう──」
一気に思考速度が火花を散らし、わたしが見ている景色の動きは緩慢に。視野が広がり、瞬きすらも許されない刹那の時間に、通り抜けられる道を模索。
これが『ゾーン』と呼ばれる超集中の感覚。
とにかくこのままでは圧し潰されてしまいます。手前の岩石は速度をさらに上げることで潜り抜け、道を塞ぐように落ちた岩石は最低限の重心移動で左右に躱し、さらに飛び越えて──
「む」
そこで、仮想のルートが途切れてしまいました。どれも岩か壁にぶつかっています。つまり万事休す。
いいえ──これは道がないように見えるだけ。可能性はまだあります。
ルートの脳内検索を拡大。
今までは〝道〟を走ることに固執していましたが、このレースはゴールさえすればいいのであって、コースの概念はほとんどありません。
走れるのはなにも用意された道だけではありません。この左右に聳え立つ壁すらも、道として見ることだってできるのです。
できるなら、それこそ空を飛んだっていい。
「──壁走り……!」
壁に向かって身体を寄せて、慣性を無駄なく生かして世界の角度を90度変えました。
見える世界が変わり、新たなルートが開けます。
「くっ……!」
流石に初めてやることは難しいですね。重力の関係とバランスの制御に全身全霊を捧げながら落石を抜けるルートを見つけるなんて。我ながら無茶なことをしていると思います。
でもこれで、この道は攻略しました。しかも崩落により道が塞がり、後続の選手たちは軒並み詰みです。
難所を突破したご褒美に、天から差す光のように縦長の割れ目が。出口です。
「────」
出口から身を躍らせた瞬間、わたしに襲いかかってきたのは浮遊感。崖から飛び出していました。眼下に広がるのは広大な砂漠。
スタート地点からここまでは荒野でしたが、抜けてきた壁を境にして、さらに大地が干からびたような印象。
自然が生み出す風の芸術。砂の波模様がどこまでも続いていました。
「抜けたぁ!」
わたしと同じタイミングで、他の選手が別の割れ目から続々と飛び出してきていました。
わたしは魔力板から足が離れないように掴んで空中で姿勢を制御しながら、着地する態勢を整えます。
──ですが、それは叶いませんでした。
見計らったかのように流砂が発生し、瞬く間に地下へ続く巨大な穴が形成されたのです。
それはまるで、わたしたちを飲み込まんと大地が大口を開けたようにも見えました。
「落とし穴だとぉ?!」
そうとも言いますね。
わたしは地下の世界へと飲み込まれていったのでした。