6話
目の前に現れた大地の壁は高く、登れる高さではありません。左右から回り込めないか見てみますが、地平の果てまで続いていて霞んでいました。
ある程度近づいてようやく見えるようになりましたが、巨大なひび割れがいくつかあるのでその隙間を通って行くしかなさそうです。
「となると、また始まりますね。争いが」
隙間に入ろうと、横長に広がっていた隊列が徐々に狭まってきています。前と後ろでそれぞれ有利不利はありそうですが、わたしはレースに勝ちたいので当然前を狙って突進します。後ろについたら砂埃被っちゃいますし。
他の選手の妨害を掻い潜り、先頭でひび割れの隙間に突入。
狭く入り組んだ道を高速で移動して左右は圧迫感のある高い壁に囲まれ、おまけに初見。これ以上ないくらいの難易度と言っても過言ではありません。
「死ぬ気かアイツ?!」
「死ぬ気? まさか」
後ろからついてくる誰かが言いました。
わたしの人生、死ぬ気なんてものが欠片でもあったら何度地獄に落ちていたことでしょう。
この程度、わたしにとっては不利な要素ばかりですが、それは〝不可能〟という意味には繋がらないのですよ。どや。
「あの白いのに続け!」
後方が有利な理由はこれです。前を走らせ、安全などの状況を他人に確認させることができる。まだレースは始まったばかりですし、落ち着いて状況を判断し、後半で抜き返せる実力があるならば前は譲ったほうが賢いわけですね。
方角だけは見失わないように気をつけながら、曲がりくねる道を右へ左へ。分かれ道も方角を意識しながら選択。
「こっちですね」
旅のお供である方位磁石に視線を落としつつ、真っ直ぐ北上します。最短ルートを選べているかは流石にわかりませんが、確実にゴールには近づいているはずです。
しかし、そんな走りかたをしていたが故にとある変化に気づくのに一歩遅れてしまいました。
「──落石だぁー!」
誰かが叫び、何度も壁に反響した声がわたしの耳に届きました。
慌てて頭上を確認すると、狭い道を塞ぎかねない巨岩が落ちてきていました。それも大量に。
別のルート──は、たったいま通り過ぎてしまいました。
止まる? いえ、急には止まれないので間に合わない。
ならば駆け抜ける? どこまで崩落が続くかわからないこの中を?
僅かに口角が上がります。
「──余裕ですね。わたしなら」
落ちてくる質量の塊に突っ込んでいく様は、後ろから見たらさぞかし滑稽に映っていることでしょうね。驚愕する息遣いがこちらまで聞こえてくるほどです。
ですが、この程度でわたしを止められると思ったら大間違いですよ。どや。