4話
砂埃舞う荒野に建設された特設会場。つまり最初のステージは干からびた荒野です。集った選手たちは自慢の魔力板に乗り、固唾を飲んで構えています。
ヒリヒリと肌を焼くきつめの日差しが降り注ぐ中、とうとうその瞬間が訪れようとしていました。
レース開始のカウントダウンが、特設会場中に響き渡ります。お客さんも声を揃えての大合唱で、多少ズレようがお構いなしでした。
10、9、8──
ほんの一部の選手がスタートラインぎりぎりに陣取り、他の大多数は後方に構えています。レースなのだから前にいたほうが有利のはず。なぜそんな後ろに?
というかスタート位置って割と自由なんですね。
7、6、5──
──スタートには気をつけるですよー!──
グリーンの忠告が脳裏を過ります。
この配置にはなにか理由があるはずです。わたしは初参加だから知らない理由が。
4、3、2──
優勝を目指すなら当然、前に陣取るべきでしょう。もちろんわたしはスタートラインぎりぎりに構えました。
近くにいるトサカ頭の男性が魔力板に魔力を取り込んでいるようですが、なにをする気でしょう。
1、0──!!!!!
けたたましい開始のゴングと共に観客の歓声が大空を震わせました。空気の振動だけでさらに砂埃が舞い上がります。
「けけっ馬鹿め──クイック・フルバースト!!」
スタートラインで陣取っていたトサカ頭の男性が開始の合図とともに爆発のような音を立てて猛烈なスタートダッシュを切りました。
──周囲に大量の砂埃や土砂をばら撒くという、いらないおまけ付きで。
「これが『スタートには気をつけて』の意味ですか。汚い洗礼ですね」
たまたま近くにいた人の襟首を引っ張って盾にしたので防ぐことができました。お陰で汚されずに済んで助かりました。
「──ガクッ」
「おや」
なぜか気絶してしまいました。って、盾にしたんでしたね。
どうやら先程のク……ク……なんたらの当たりどころが悪かったようです。その辺へ適当に放り投げておきました。
「っしゃ行くぜー!」
「オラオラオラオラ!」
「俺様がいっちゃん目立つ!!」
すぐさま後ろに構えていた集団に飲み込まれるような形でレースはスタート。
トサカ頭の男性には流石に先を越されてしまいましたか。
『34番モンティ選手ボードからの落下により失格! 続けて78番から85番までの選手も落下により失格です!』
実況が高らかに響き渡ります。
「あ、そういえば魔力板から落ちると失格になるんでしたっけ。これは気をつけなければいけませんね」
集団がスタート位置から離れていたのは、先頭を独走するトサカ頭の男性のクなんとかに巻き込まれないようにするためだったのですね。
難を逃れたわたしも負けじと速度を上げました。
──その瞬間、わたしの目の前に誰かの裏拳が迫っていました。