3話
急な話ですがわたし、魔力板レースに彼氏さんの代走として出場することになりました。
決して優勝賞金に目が眩んだわけではありません。メダルを取って無念を晴らしてあげたいと思っただけで、ようは彼女さんの熱意に折れたのです。
本当ですよ? 本当ですってば。
「凄い賑わいですね……肺が壊れそう」
彼女さんから魔力板レースについてルールやコースなど、色々と教えてもらいながら会場に移動したわたしは滑り込みで代走の申し込みをして背番号を受け取り、スタートライン付近で待機しているところです。
レースに向けての準備もクソもありません。着の身着のままの参加です。乙女がクソとか言ってはいけませんね。反省。
わたしは特設会場をぐるりと見回します。
「それにしても色々あるのですね。魔力板にも」
観賞用としか思えない奇麗な装飾が施されたものから、誰かはわかりませんがイラストが描かれていたり、隠そうともしていない武装が搭載されたものまで様々です。それは魔力板に限らず、選手自身も。
「最初はもっとシンプルだったんですけど、それがどんどん過激になっていって、今ではお祭りです」
名前だけは有名なレースですからね。ここで活躍できれば一躍有名人ですから、目立とうとする人が増えたのでしょう。
「そろそろ始まりますね。どうかご武運を」
「はい。期待して待っていてください」
そこで彼女さんとは別れました。
わたしに課せられたミッションは二つ。一つは優勝メダルを獲得し、カップルの無念を晴らすこと。もう一つは──お願いされたわけではないので個人的なシークレットミッションです。
状況は始まる前から不利ですが、これは乗り掛かった舟。良い報告ができるように、もう頑張るしかありません。
「しかしやけに鳥が多いような……ん?」
選手の一人一人に様々な種類の鳥がついていて、わたしのところにも飛んできました。白い鳩が。
胸のあたりに小さなレンズがついた謎の物体がぶら下がっています。
こんなところに白い鳩。まさか──
「せーんーぱーうぃー! むぎゅ?!」
「やっぱりあなたでしたかグリーン。近寄らないでください」
いつもの如く抱き着こうとしてきたのでムニムニのほっぺたを両側から挟んであげました。
「あーんいけじゅー! あむあむあむ」
「無駄に口をパクパクさせない。子どもですか」
いえ、子どもでしたね。
ほっぺたサンドから解放すると寂しそうに眉尻を下げました。甘えない。
「それはさておき、どうしてあなたがここに?」
聞くと、パッと表情が明るくなりました。
「それはこっちのセリフですよー! 魔力板レースに出場するですよー?」
「ええ。少しわけあって」
詳しく説明するのは面倒ですしそんな時間も無さそうです。あと少しでレース開始になるとアナウンスが入りました。
「そうなのですかー! グリーンはお仕事ですよー! ここ最近は全面的にグリーンが担当してるですよ! すごいです? すごいです?!」
「それは凄いですね。偉い偉い」
「えへへー……」
頬を掻いて照れています。やっぱり子どもですね。
「そろそろスタートのようなのでこの辺で。では」
「はい! スタートには気をつけるですよー!」
いつも仕事で来ているグリーンからの忠告です。ありがたく頂戴しておくとしましょう。
わたしはスタートラインの遥か先、見えないゴールに目標を定めました。
「さて、優勝……してきますか」
どや。