23話
火口をジャンプ台にして跳び、ゴールのゲートが遠目で視界に入ると同時に、見えてきたのは絶望へ招く大地の嘲り。
トサカ頭の着地点にだけ、巨大な地割れが発生していました。その奥では全てを灼く星の脈動が輝いています。
「クなんとかを! 早く!」
あの爆発のような魔力の噴射があれば、空中で軌道を変えるくらいは造作もないはず。
迅速な離脱を提案したわけですが、それは叶いませんでした。
「クイック・フルバースト! クイック・フルバースト! くそッ!」
すでに何度も試みているようですが、肝心のクなんとかは発動しません。魔力のチャージが足りないのか、マグマの熱により機構がおかしくなってしまったのか、理由はいくつかあるでしょうが、いま見るべきは発動できないという事実。そしてその先に待ち構えている死という現実。
現実から目を背けるように、トサカ頭はわたしを見ました。その目は死にたくないと言っていました。
「手を! 跳んで!」
わたしは手を差し出しました。掴めと。精一杯に。ですがそれだけではとても届きません。魔力板を捨ててでもこの手を掴めと、強く思いを込めて呼びかけました。
トサカ頭は空中で不安定な足場の中、力強く踏み切って手を伸ばします。
「────」
彼の表情が絶望に染まりました。お互いの指先を掠め、ギリギリのところで掴めなかったのです。自由落下に身を包み込まれ、トサカが虚しく靡いています。
「────っ」
わたしは諦めませんでした。久しぶりにアレをやりますか。特別に秘策中の秘策を披露してさしあげましょう。
……というより疲れるし苦手なのであまりやりたくないだけなんですけど。人の命には代えられません。
意識を集中させて空気中に漂っている魔力を捉えて足裏に集中させてから、落下していくトサカ頭を追いかけてわたしも魔力板から飛び降りました。
魔力板がやってくれていることを自分の足裏で再現することによって、宙を駆けることを可能とするのです。
これができると落下で失格になることはないのでズルだと思い封印していたのですが、そんな悠長なことは言っていられません。
トサカ頭の手を改めて掴み、宙ぶらりんの状態になりました。重くて腕が千切れそうです。
「……やっぱり幽霊?!」
「離しますよ。手を」
魔力板もなく宙に浮いていることに驚いたようですが、気が動転するのも頷ける状況ですのでここは見逃してあげましょう。
急いで無人のまま先を行っているわたしの真っ白な魔力板を追いかけて宙を駆け、帰還。トサカ頭を安全に地面へ下ろし、わたしは悠々とゴールのラインを越えました。
そして実況のアナウンスが高らかに響き渡ります。
〝ゴォォォォォォォル!! 魔力板レースの一位を獲得したのは背番号4番のホワイト選手ぅぅぅぅ!!!〟
声高々にわたしの勝利が宣言されます。
彼女さん、約束は果たしましたよ。彼氏さん、代わりに優勝を果たしましたよ。
どうかこれで、安らかにお眠りください。
──終わり。
もうちょっとだけ続くんじゃよ。




