21話
「俺の前に出たな……？」
ニヤリと嗤う、そんな呟きが抜き去ったわたしの耳に届くはずもなく。
次の瞬間、わたしの服をかすめるようにして射出されたのはアンカーショットでした。頑丈そうなワイヤーの先端に、返しの付いた槍状の物が付いています。それがわたしの左右を通り抜けていったのです。それらが地面に突き刺さり、素早く巻かれています。
つまりいまのわたしはワイヤーにより左右への動きを制限されており、かつトサカ頭はリールを巻いて加速、接近しています。
「はなから俺の後ろを走る連中には興味ねぇ！ 前を走る邪魔な奴を屠るために改造してきたんだぜ？！」
トサカ頭は「喰らいなっ！」と魔力板を力強く踏み締めました。そこにスイッチでもあったのか、その瞬間前方にけたたましい爆音が発生し、わたしの鼓膜を襲いました。その威力による空気の振動で周辺からも埃が舞い上がります。
「────ッ？！」
急な出来事にわたしはとっさに両耳を塞ぎました。流石に音による攻撃は領域を壁にしたところで防ぎようがありません。全方位をぐるりと包み込むようにしなければ無理です。
そして接近してくるトサカ頭の魔力板はまたしても別の姿に変形していました。先端が凶悪に尖り、さらに魔力でコーティングするように強度とリーチを伸ばしていて、あれで貫かれたら身体は上下に分断されてしまうでしょう。奇麗に。
「クイック・フルバースト！！」
そこからさらに爆発的加速。あの魔力によるコーティングは領域魔法に片足を突っ込んでいるように見受けられるので、同じ分類であるわたしの魔法で防ぎきれるか、わかりません。打ち勝てればいいですが、相殺では結局物理的に真っ二つになってしまいますから。
「お前も死ねぇぇぇぇぇぇぇ！！！！」
鬼気迫る表情で真っ直ぐに突っ込んできました。わたしが出せる全速力で以てしても、アンカーによる加速と爆発の反動による加速がわたしとの距離をあっという間に縮めてしまいます。
だからどうした、ってやつですけどね。
「そんな簡単に死にませんよ。わたしは超絶優秀な美少女ですから」
どや。
わたしは方向転換してトサカ頭と向き合い、前進しました。バックではありません。つまりこのままではお互いの速度が上乗せされた正面衝突。もちろん領域で壁を作っておくことは忘れません。
圧縮魔法でワイヤーを切断し、左右の制限を解除して逃げても良かったのですが、トサカ頭の傲慢な鼻っ柱をへし折りたくなりました。
「ハッ、俺とチキンレースしようってか？！ いいぜぇ乗ってやるよ！」
わたしは手の平を前に突き出し、壁の展開を維持しながら真っ直ぐにトサカ頭を見据えて突進します。それに負けじとトサカ頭も突っ込んできます。
そして──
