12話
突如地面から突き出してきた肉厚な丸太。速度を上げていたため左右では躱し切れません。停止も同様。
「ふっ──!」
わたしは軽く屈んでボードの縁を片手で掴み、魔力板の間に発生している魔力の反発力をバネに前方へ宙返り。天と地が逆さまになりながら、突き上がり切る前に丸太を既のところで飛び越しました。
「流石に危なかったですね。いまのは」
かなり凶悪な罠です。それこそ選手の命など散っても構わないとすら思っている。わたしにはそう感じられました。
視界の端でキラリと反射する光を捉えました。それはわたしに向かって高速で飛来するなにか。
「──っ!」
咄嗟に掴み取ったそれは弓矢でした。よく掴んだ。危うく死んでました。
そしてまだ終わっていませんでした。わたしが掴み取った最初の一発は距離や角度を図るための試射。第二射からは数を増やし、まるで星空の輝きのように埋め尽くします。
進行方向を変え、木を遮蔽物に。ドガガガガガと猛烈な音を立てて幹に突き立ちます。
「こっちからも」
二重三重に仕掛けておく罠の鉄則をしっかりと守り、反対側からも同じように大量の矢が飛んできました。
たまたま近くに落ちていた他の選手の魔力板を拾い上げ、それを盾にして身を守ります。
「また他の選手の魔力板に助けられてしまいました」
ボロボロになった物は投げ捨てて、新しいのを拾います。このボードは振り落とされないように紐が付けられていたので、それを縛って背負いました。
このレースは魔力板から落ちたら失格になります。万が一自分の魔力板が破壊されたときの予備としてあると安心でしょう。先ほどのように盾にもできるし、いまならそこらじゅうに転がっています。
わたしの魔力板は高かったし真っ白で気に入っているので絶対に破壊などさせませんが。
「囲まれていますね」
矢の嵐を凌ぎ、木々の障害物を華麗に躱しながら真っ直ぐにゴールを目指していると、人の気配を周囲から感じ始めました。
それらは徐々に近づいてきて──
「……怪しい連中ですね。明らかに」
顔をマスクやゴーグルで隠し、身なりや魔力板も自然に溶け込むような暗色で統一されています。
わたしの影のように、背後にピッタリとついてくる一人が口を開きました。
「4番……グロウの隠し球か? 通りで他の連中と動きが違う」
「ご存知なのですか?」
「事故で死んだと聞いたが、関係者ならば油断はできない。心してかかれ!」
合図で一斉に飛びかかってきました。一人一人が武装しており、罠で仕留められなかったから直接手を下そうという魂胆でしょう。
「邪魔すると言うのなら、手心は無いと思いなさい」
どや。
多種多様で予想できない、かつ不意を打つ罠のほうが、わたしにとっては都合が悪かったですよ。