10話
「ねぇちゃん魔法使いだったんだな。お陰で仇が取れた、感謝する」
とは魔物と戦っていた選手たちの代表さんの言葉。話ができる人もいるのかと思いながら耳を傾けてみれば、彼らはあの魔物に仲間を何人もやられていたのだとか。今回に限らず、前回、前々回と。
レースに勝つことよりも、あの魔物を倒すことのほうが本命だったようです。それで感謝されたと。
それならばレースにわざわざ参加しなくてもいいのでは? と疑問にも思いましたが、彼らなりの理由があるのでしょう。例えばあの魔物は年に一度姿を現すタイプの魔物で、時期が被っているからついでに参加しているとか。適当ですけど。
「ついてきな、ここの構造は把握してる。出口まで案内してやるよ」
「あなたの感謝は受け取っておきましょう。ですが信用はできません」
罠にハメられて殺された人をこの手で弔ったのです。レースの参加者は全員疑ってかかるべき。
代表さんは「それもそうだ」と苦笑い。
「その用心深さは宝だ、大切にしな。ならこれでどうだ?」
そう言うと、魔力板から自ら降りました。それは同時にレースからも降りたということ。鳥の視界や謎のレンズ越しに脱落であると判定されたはずです。
代表さんに続いて、他の仲間も続々と魔力板から降りていくではありませんか。
「これで俺らはねぇちゃんを騙すメリットは無くなった。だろ?」
「…………まぁ。ですね」
どうしてもまだ裏があるんじゃないかと疑ってしまう心があるのも事実ですが、向こうには地の利があるのもまた事実。
「俺らのレースはたったいま終わった。あとは帰るだけだから、後から好きについてくればいい。先に行くぜ」
そして代表さんは仲間を引き連れて退散していきます。方位磁石に目を落とし、進みたい方角に向かっていることを確認してから、わたしは後を追いました。
「出口だ……本当に」
すぐに外の明かりが見えてきました。道中なにもなく、安全に地下空洞から脱出できました。代表さんのお陰で。
「言った通りだろ? ばあちゃんから『べっぴんさんは大切にしろ』って教わったんでな」
「わかっていますね。あなたも、あなたのお婆様も。感謝します」
「困った時はお互い様ってやつだ。あとは自力で頑張んな! 応援してんぜ」
そう言うと代表さんは南へ。スタート地点へ戻るようです。
わたしはもちろん、引き続き北を目指すわけですが──
「景色が変わりすぎではありませんか? 森の中なんて」
先程まで砂漠のど真ん中にいると思っていたのですが、地下空洞を抜けてみればそこは森の真っ只中でした。
いろんな地形が密集している不思議な土地とは聞いていましたが、まさかこれほどとは。
距離感が狂いそうですね。砂漠の景色を見たときは蜃気楼にでも騙されていたのでしょうか。
それはさておき。
「……つくづく森とは縁があるようですね」
旅をしていれば森を突っ切ることはよくあります。このステージはわたしの独壇場になりそうですね。どや。