第66話 えっちな椅子取りゲーム(なお椅子役) at 1995/5/30
「モーリーケーンー? どーおー? んー? うりうりー!」
……どうしてこうなるんだよぉ。
二時間目の後の少し長い休み時間。窓際の僕の席には、なぜか桃月を筆頭としたクラスのAグループに属するイケてる女子たちが集まってきて、どういうわけか僕を椅子に見立てた椅子取りゲームみたいな人間椅子みたいな、ちょっとえっちな遊びが始まってしまったのだった。
これってやっぱり、昨日の勉強会の影響……なのか?
「ほーら? どーおー? うりうりー!」
「や、やめろってば、桃月――さん! 重――!」
いかんいかん。『重い』とか口に出そうものなら物理的に殺されかねない。実際、桃月は元々小柄だし――確かに巨乳には違いないが――とりわけ根を上げるほど重いってわけじゃない。
っていうより、ね……。
「んー? どーしたのかなー? モーリーケーンー? んー?」
こいつ……わかっててやってるだろ、絶っ対っ!
桃月は肩越しに僕の表情を観察しながら、絶妙なリズムと圧力をかけて形が良いと自慢のヒップを押し込んでくるのだけれど、その下にあるのは、僕のまだ無邪気でウブなアレなわけで。
(反応したら負け……反応したら負け……っ!)
ぴくり、とでも反応しようものなら、何を言いふらされるかわかったものじゃない。即刻社会的に抹殺される。っていうか、さっきから桃月のショートボブの黒髪からすっげえ良い匂いがしてきてこれはシャンプー的な何か? それともリンス? って意識したらダメぇ!?
「ちょ――! マジで……ヤバい……から……っ!」
「なーにーがーヤーバーいーのー? んー?」
僕に密着している桃月のカラダが急に熱を帯びたように感じる。気のせいか、桃月から漂うシャンプーやらなんやらの匂いもどんどん強くなってきている気が。こいつ、興奮してるんじゃあるまいか。やたらと、はっ、はっ、と息を弾ませ、カラダを弾ませるリズムも早くなる。
さすがにこれじゃ、他の奴らはドン引き……かと思ったら。
「つ、次、あたしー! あたしもやるー!」
「ねー? ど、どんなカンジー?」
ノリノリなんですね……。
ええと誰だっけ。陸上部の牧田さんに、バドミントン部の手島さん。残念だけど、僕は遊園地の乗り物じゃなくって、一応ちゃんとした人権のあるひとりの中学生男子なんですががが。
そこでようやく無言の助けの声が届いたのか、見かねたロコが頬を赤らめて口を挟んできた。
「そ、そのへんでやめときなって。な、なんかアレっつーか……ほら、ね?」
「んー? アレってなーにー? あたしはただー、モリケンと遊んでるだけなんですけどー?」
逆に質問されると思っていなかったロコは、途端にしどろもどろになってしまう。
「ア、アレはアレだってば! ほ、ほら? なんていうか……えっちなカンジの奴で……」
「きゃー! やだー! ロコってそんなことばっか考えてるのー!? ただの遊びだよー?」
「考えてないからっ!」
「とかいってー。ホントはロコも、やってみたいんでしょー? んー?」
「ちょっ! ばっ、ばっかじゃないの!? そりゃ、ちっちゃい頃にはやったけどさ……」
「ならいーじゃん。……ははーん、もしかして、ロコ、モリケン意識しちゃうからなのー?」
「ははっ、ないないない。だって、ケンタだよ? 弱虫で、いっつもあたしの後ろに隠れてた」
余計なことは言わんでいい。あと、うすら笑いもやめろってば。目の前の羽虫を払うような小馬鹿にした仕草でロコが手を振って全否定すると、桃月は絶好のチャンスとばかりににやりと小悪魔めいた笑みを浮かべた。なんか……危険な予感が……!
「ふーん。じゃーあー、ロコもーできるよねー? ぜっんぜん意識してないんでしょー?」
「で、できるに決まってるじゃないっ! もー余裕すぎて爆睡するまであるって! あはは!」
……忘れてた。
ロコって異常なレベルであおり耐性が無いんだった。
ホント、馬鹿。