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第56話 僕は悪いロリコンじゃないよ at 1995/5/8

「なんだか、連休明けだってのに物凄く疲れてるんだけど……」


「……ねー」



 なんだかんだいって、俺と渋田のゴールデン・ウィークは、朝から晩までカタカタタターン! とキーボードを叩いているだけで終わってしまった。なんともやるせない気持ちである。


 いつものごとく、窓側にある僕の席とその前の席を借り、渋田と二人してぐったりうなだれているところに純美子が登校してきた。早めの登校時間に変えて本当に良かった。ひさびさに――といってもたった五日だが――見た純美子は、僕の荒みきった心に潤いを与えてくれた。


 と、突然渋田がむくりとカラダを起こし、早速一時間目の準備をしている純美子に尋ねた。



「ね? ね? 河東さんはどこか出かけたりしたー?」


「えっと……お母さんの方の田舎に、家族で行ったりしてたの。北海道だから、こういう連休じゃないと気軽に行けなくって。はい、これ、ケンタと渋田君にお土産」



 純美子が通学鞄から小さなお土産袋を取り出すと、かすかな鈴の音色が、ちりん、と鳴った。



「やったー! 聞いてみるもんだね、モリケン!」


「あ、ありがとう、スミちゃん。ゴメン、僕とシブチンは、結局どこにも行ってなくって――」



 恥ずかしいやら情けないやらで、視線を泳がせながら僕はモゴモゴと言い訳を口にした。そのついでに、早速袋を開けて『マリモのキーホルダー! かわいいー!』とか言いはじめた不躾(ぶしつけ)な渋田を小突(こづ)いておくことにする。即開けんなって。



「あっ! いいの、いいの! あたしがあげたくっておこづかいで買ってきたんだから!」


「だったら余計に――」



 中学生にとって、限りあるおこづかいがどれほど貴重なものかは十分わかっているつもりだ。それを僕なんかのために使わせてしまっていいんだろうか。あと、まだうるさい渋田なんぞに。


 と、不意に純美子が僕に顔を寄せて小さく囁いた。



「……お返しは、楽しみに待ってるから、ね?」


「え!? う、うん……約束する……」



 うはぁうっ!!



 熱い吐息と甘い香りがまだ僕の右頬あたりにふんわり漂っているようで、胸がきゅっとなってしまった。やばい、超やばい。もしかして、僕、ロリコン属性なのか!? 四〇歳だぞ僕! みるみる顔が赤くなってくるのを自覚しつつ純美子を見ると、照れたような笑顔を浮かべながらも、ちろり、とピンク色の舌を出してみせてなんかいる。小悪魔なの? ねえ!?



「……ん? どったの、二人とも? 赤くなっちゃっ――」


「うぁああああ! やかましいっ! そ、それよりもだ! 鎌倉旅行の計画は立てたのか!?」


「え? ま、まだだけど……。って、モリケンだって一緒だったんだし、考えてないでしょ?」



 あ、そっか。

 特大のブーメランだったわ。


 隣からのジト目が刺さる……! これはこれで……いい……!


 が、じき純美子はたまらず噴き出してしまった。僕ららしい、とでも思ったんだろう。



「荻島センセイ、今週中に行動予定表作って各リーダーから提出すること、って言ってたよね」


「だね。じゃあ、ロコたちにも――ぐふっ――上ノ原さんたちにも声かけて、一度集まろっか」



 なんで『ロコ』って呼び名にだけは反応早いかな……あばら骨イってない? この痛さ?



「うん。あたしも上ノ原さんも部活あるから、うまく曜日と時間調整してくれると嬉しいな」


「了解。まかせて」



 佐倉君や五十嵐君も、学校の部活動には所属していないものの放課後になるとすぐ帰ってしまうらしいから、何か別の用事があるのかもしれない。早めに都合を聞いて調整するとしよう。


 水無月さんも……来れるといいのにな。




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