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第532話 バイバイ、ケンタ at 1996/3/30

「……いいか、みんな! よく聞いてくれ!」




 ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。


『――現在の現実乖離率:115パーセント ※警告! 警告!』




「おそらくあの絵は、『並行世界』につながる入り口なんだ! あれにツッキーが呑み込まれ、同時に『死』を迎えることで、この終わりのないループは完成するんだ! それがわかれば!」



 僕は言うが早いか、荒れ狂う暴風の源、あの絵の方へと、じり、じり、と()いずっていく。



「ち、ちょっと!? ケンタ……あんた、何する気なの!?」


「あの絵を破壊する……! 僕は『リトライ者』だ! だから『()()()()()()()()()()()!」



 その瞬間、茫然と僕らを見つめる五十嵐君に気づいて、しまった、と目をつぶる。

 だが――。



「古ノ森リーダーは……本当のことをおっしゃっていたんですね……! 未来から来た、と!」


「え……? 『強制リセット』が起こるんじゃないのか? もしかして、結界の中だから……」


「それよりも、です! 勝算は……勝算はあるのですか!?」


「そんなものあるワケない! あるのは『可能性』だけだ!!」


「悪くはないですね……。しかし、あそこに落ちてしまえば!」


「僕にもわからない! よくて元の場所、最悪、どこかの『並行世界』に飛ばされるだけさ!」



 考えろ――考えろ――考えろ、古ノ森健太!

 あの絵を破壊するには――!


 あの絵は『リトライ・アイテム』――『リトライ・アイテム』は人の『願い』と『想い』から生まれる――その『願い』と『想い』を打ち消すには――。






 その時、ある考えが浮かんだ。






「……『リトライ・アイテム』同士ぶつければ、対消滅させることができるかもしれない!!」




『――現在の現実乖離率:120パーセント ※警告! 警告!』




 僕はいよいよ深刻度を増した現実乖離率をスクリーンに映し出すスマートフォンを、じっ、と見つめる。やっとのことでつかんだツッキーの手を必死に握りしめながらロコが叫んだ。



「なにいってんの! もしバランスを崩しでもしたら、『リトライ・アイテム』を失くしたフツーのニンゲンは一瞬で死んじゃうんでしょ!? そんなこと、絶っ対にダメだってば!」


「けど、もうこれしか方法がない! どのみちツッキーが巻き込まれたら『リトライ・アイテム』であるコトセが消える。再び生まれても、それはもう僕らの知っているコトセじゃない!」


「じゃあ、成功したとして『リトライ・アイテム』を失くしたケンタはそのあとどうなるの?」




『――現在の現実乖離率:130パーセント ※警告! 警告!』




「……もう、元の時間には戻れないだろうな。このままここに残って、オトナになっていく」


「そ――そんな……!」


「たぶん……あの時、あの瞬間に脳裏に浮かんだ『願い』や『想い』も消えちまうんだろうな。なにせそれを封じ込めた『リトライ・アイテム』を破壊するんだから。そして……やがて『未来』のことも忘れてしまう。きれいさっぱりと。でもまあ、案外楽しいかもしれない、だろ?」



 僕の笑顔に、ロコはこたえてはくれなかった。

 ただ、覚悟と決意の色が瞳に宿っていた。











「このロコ様が一緒にいる限り、ケンタの物語はいっつもハッピーエンドなんだから、か……」











『――現在の現実乖離率:140パーセント ※警告! 警告!』




「ロコ……お前、今……なにを……!?」



 ツッキーを引き上げ抱きしめた五十嵐君にあとを任せると、僕のところまで飛ぶように近づき、なんの前触れもなくロコはくちびるを重ねた。甘く、切なくなるような口づけだった。



「……もうこれで、あたしの叶えたかった『願い』と『想い』はぜーんぶ、お・し・ま・い。だから――」


「お……おい! 何を……する気なんだ、ロコ!?」


「さよなら、あたしの王子様――」



 ロコはあの懐かしい、困ったような微笑みを浮かべ、ポニーテールをほどいて髪飾りを握る。



「……ホントはね? 小さい頃、あたしの方が先だったんだよ? ケンタにスキって言ったのも、こっそりキスしたのだって……! でも、そんなのズルじゃん、スミがかわいそうだもん」


「ダメだ……! ロコ! やめてくれ……お願いだ……!」




『――現在の現実乖離率:145パーセント ※警告! 警告!』




「……今度こそ間違えないでね! スミの手、絶対、絶っ対放しちゃダメなんだから――!!」


「僕は……僕はロコのことが……本当に……本当に……!」






 ――と……ん。


 ロコは僕のカラダを渦の中へと押し出し、髪飾りを、ぐっ、と構えた。






 そして、あふれんばかりの涙とともに、

 最後に、そっ、と告げる。






「……バイバイ、ケンタ。あたしの世界一大スキで大切な……白馬の王子様――!」




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