第530話 それぞれの結末 at 1996/3/30
「く……そ……っ! ちょこまかと……! 速さで僕にかなうワケがぁあああああ……!」
――ざん!
迷いもなく間合いを詰めてくる『プレイヤー』めがけて、大月大輔はまっすぐにダイブする。
そして――ぐきり。
「ぐ……っ……!!」
触れた一瞬で、わずかもためらうことなく、手の中におさめた左足首を完璧に破壊した。あっけなさすぎて、むしろつまらなさを感じたくらいだ。一体このちびすけはなんのために――。
「お………………おい……! よせ……!」
が――佐倉はその白い手を放さない。
「や……やめろ……! 放せ……! 放したまえ! 君の足は、もう壊したんだぞ……!?」
が――どう足掻こうが、どう蹴りつけようが、どう振り払おうが佐倉はその手を放さない。
「やめろぉおおおおおおおおおおっ!!」
そこに――きゅきゅっ! どん!!!!!
大月大輔に、その全身全霊を込めた一撃をかわす術はなかった。ぐたり、と伸びたカラダを押し退け、気を失ってしまった佐倉のカラダをそっと抱き起し、背負って、室生はひとりつぶやく。
「僕は……僕は、また、勝てなかったな……。真の勝利者は君だ、佐倉君――」
『――現在の現実乖離率:98パーセント』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「どこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもぉおおお!!」
「こんのっ! くそがぁああああああああああ!!」
覚悟を決めて、小山田が振りかぶった刹那だった。
「ダ……ダメだよっ! ダメだって、小山田っ! もう、あんたはそっちじゃないでしょ!?」
「お……おいおいおいおいおい! 邪魔すんなって、野方っ!!」
「ダーメ! 美織に頼まれてんのよ」
まるで緊張感のない口調とそぶりで、咲都子は一触即発の状況にあるふたりの間にやすやすと割り込んでしまう。
「小山田が――ダッチがまた間違えそうになったら止めてって。やっぱり美織の心配したとおりじゃない。あんたってば……もう! あんないい子、もう二度と捕まえらんないからね!?」
「い、いやいやいや! とは言われてもよぅ……」
ちら、ちら、と小山田の視線が泳ぐ。
そのたび、うひ? うひ? とタツヒコが呻いた。
あまりに滑稽でシュールで、ともすれば吹き出しそうになる。
しかし、咲都子はいたって真面目で頑固だった。
「ほらっ! せっかくのプレゼント、お揃いなんでしょ? もう! こんなにしちゃって……」
「お、おう……。いや、お、おい! 馬鹿っ! あぶねぇ――!」
再びタツヒコが動き出し、とっさに咲都子をかばおうと小山田が動きかけたその瞬間だった。
――みちり。
「うぎっ!?」
「………………ねぇ? この手……今、僕のサトチンに、何しようとした!? ねぇねぇ!?」
タツヒコの振り上げた手をしっかりと握り締めていたのは――シブチンこと渋田幸徳だった。その温和すぎるキレ顔に苦笑しながら、咲都子はあっけらかんとした顔つきでこう言い放つ。
「あたしの自慢の相方はね? 伊達に普段からあたしのツッコミ受けてないのよ? すっごいタフなんだからね♡」
『――現在の現実乖離率:99パーセント』





