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第510話 僕のカノジョに手を出すな(2) at 1996/3/17

「お――おい! なにをぼんやりしてるんです!? その少年を取り押さえなさい!」



 はっ、と僕に連行されていた中年の警備員は我を取り戻し、腰元から三段警棒を抜き取ると、手の一振りで、しゃきり、と伸ばした。それから改めて手の中のカッターナイフを見つめる。



「は、はは……。これじゃあ誰も傷つけられるワケない、か。見事に一杯食わされたな」


「だから、そう言ったじゃないですか」


「……」



 警備員は静かにこたえる僕を黙ったまま、しばし見つめていた。それから、もう一度手の中の、刃のないカッターナイフを見つめると、それをポケットにしまいこむ。それからこう告げた。



「だからといって、君のやったことは立派な犯罪だ。わかるな? まだ中学生くらいだろう?」


「さっきも言ったとおりです。僕は自分のしたことの重さもわかっていますし、罰も受けます」



 僕はそこで純美子を見つめた。



「でも、もう少しだけ待ってください。僕は、カノジョとハナシがしたいんだ。お願いします」


「お、おい! 君!」



 そこで慌てたような強い口調で呼びつけたのは講師の浜田山(はまだやま)だった。



「そんなたわごとどうでもいいだろう? とっとと取り押さえて警察にでも突き出してくれ!」



 すると、だ。



「どうですかねぇ。イタズラの度は過ぎてましたけど、そこまで神経質になる必要もないんじゃありませんかね? それに、ハナシをしたいだけ、ってんです。ガキなりに命張って、ね?」


「き、君――!? 職務怠慢だぞ!?」


「だったら、ご自分でふんじばってみますか、センセイ? なかなかどうして手強いですよ?」


「……っ! あ、あとで後悔するぞ?」


「け、警備員さん……? どうしてです? なにもあなたが――」


()()、だ」



 その警備員――大塚は胸のプレートが見えるようにカラダをひねり、帽子に手をかけて身住まいを正してから、敬礼をするように右手を帽子のツバに添えた。そして深々と息を吐く。



「私の名前は大塚と言う。二〇年この仕事を続けてきたが、君みたいに無鉄砲で、無軌道で、手のつけようのない頑固な少年ははじめてだ。そして……その決意と覚悟と、信念も、だな」


「あは……あははは……。すみません」


「謝るなって。最後までやり遂げろ。後悔、したくないんだろ? それだけ大切なんだろ?」



 こくり、とうなずくと、大塚はうなずき返し、僕と純美子を背に、警棒を身構えた。



「それまでは、誰にも邪魔させんさ。……なあに、ここでの仕事にも少し飽きていたところだ」


「――っ! ありがとうございます!」




 僕はあらためて純美子の大きな瞳を見つめる。

 僕の大事な人。その純美子を泣かせたのは――僕だ。




「聞いて欲しいんだ、スミちゃん。この前は……本当にごめん――」




 こくり、と目元に赤みが残る純美子がうなずいた。




「僕はさ……『君のため』なんだから、って自分までも騙して、僕が身を引けばスミちゃんの夢が叶うって思ってたんだ。でもさ……それって僕が思った『スミちゃんの夢』だったんだよね?」


「……うん」


「でもさ? スミちゃんが思う『スミちゃんの夢』ってそうじゃないんだって気づいた。一人前の声優になれて、いつか声優界の頂点に立って。でも、そこに僕がいないと意味なんてないんだなって」


「そ――そうだよ……そうじゃないとやだよ、スミ!」


「ははは……。ダメだなぁ、僕。いっつもいっつも間違ってばかりだ……」




 そこで僕は、もう一歩――。

 カノジョの泣き顔を前髪でくすぐるようにして、額を寄せた。




「でもね、今度は――今度こそは間違えない。僕は、スミちゃんがスキだ――大スキだ――!」




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