第502話 すべては、無駄 at 1996/3/15
新しい週がはじまった。
僕の隣の席には――誰もいない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
水曜の授業中。
誰もが何か言いたげに僕の方を見るのだが――。
僕は視線を合わせないように、ずっと変わらず窓の外を見ていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
木曜の昼食の時間になった。
僕は仲間たちを避けるように教室を、するり、と抜け出し、誰もいない廊下の隅で、昨日と同じうす曇りの空をぼんやり見つめて過ごした。
時間が経つのがあまりにも長く、苦しかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
やがて金曜のLHRも終わり、帰ろうかと通学カバンを取り上げた時だった。
「………………来て」
ロコだ。
「………………なんでだよ?」
「いいから! 来なさいよっ!!」
ぐい――ともの凄いチカラで胸倉をつかみ上げられた。学校では珍しいポニーテール姿。髪をまとめている青白い蝶は、幽鬼のようにめらめらと燃え上がっているかのようだった。
そのまま僕は、抵抗する気も失せていたこともあって、引きずられるように『電算論理研究部』の部室へと連行されていた。が、なぜか他の部員たちの姿は見えない――放り込まれる。
「……今日は、みんなには帰ってもらったから。ふたりっきりにして、って」
「勝手なことを――」
つい、イラっとしてつぶやいたとたんだった。
もう一度胸倉をつかみあげられて、チカラの限り揺さぶられた。
そのたびロコは泣き叫ぶ。
「勝手なのは! あんたでしょ!? なにやってんのよ、ケンタ!!」
「なにがだよ!?」
――ぱしぃん!
「ぐ……ったく、どいつもこいつも! 僕の気持ちも知らないで、パンパン叩きやがっ――!」
――ぱしぃん!!
「ち――痛ってえな! くそっ!! 一体なんなんだよ!? ロコにはカンケイないだろ!?」
――ぱしぃん!!!
「カンケイあるわよっ!!」
ロコが身を折り曲げるようにして絶叫した。
だが今日だけは、僕は怯みもせずにただ受け止める。
「……スミ、泣いてたわよ!? すごく……すっごく泣いてたんだから! 大好きなのに!!」
「もう僕のことなんて、スキじゃないだろ!? あんな……あんなこと言ったんだからな!!」
「まだスキだから悲しいんじゃない、まだスキだから泣くんじゃない! あたしにはわかる!」
「お前に――ロコになにがわかるってんだよ!?」
ぱすっ――ロコは突然ポニーテールをまとめていたあの青白い蝶の髪飾りをむしり取るようにして、僕に思いきり投げつけてきた――あふれる涙とともに。
そしてロコは、こう言ったのだった。
「わかる理由、教えてあげる。それはあたしの『リトライアイテム』が教えてくれるからよ!」





