第457話 いつのまにかクラス公認だった件。 at 1996/2/13
また新しい週がはじまった。
「――ってカンジだったの! もう、スミ、すっごく驚いちゃって――!」
「あははは。スミちゃん大慌ての巻、だね。おっす、シブチン、おはよう」
――と。
通り過ぎようとした僕は、返事がないことに疑問を抱いて二、三歩後戻りをする。
「なんだよ、その顔は。パントマイムの練習でもしてるのか?」
「い――いやいやいや! だって!」
必要以上に、むすり、と顔をしかめながら、僕が渋田のあんぐり開いた口に人さし指をつっこむそぶりをすると、渋田にかかっていた硬直魔法の効果が一瞬でかき消えた。慌ててこう言う。
「いつもさ? とっくにクラス全員にバレてるってのに、なんとなく付き合ってるような、そうでもないようなあいまいな態度で通してたモリケンがだよ!? 今日は仲良く登校だなんて!」
「い、いいだろ、別に!」
……今、なんて言った?
「………………とっくに? 全員? それ……マジ?」
「大マジ」
「う……そ……だろ……!? い、いやいやいや! いいんだけどさ!」
少なくとも僕と純美子のふたりだけは、その『クラス全員』って中に含まれてないってことだけはわかった――わかりたくなかったけど。とたんにまわりの目が気になりはじめてしまう。
「――っ」
別にいつもと変わりない(みんなにとっては、だ)光景なのに、僕たちは元々控えめな性格――陰キャをていねい語で言うとこうなる――なものだから、あうあう……と言葉が出ない。
「いまさらなんだよなぁ」
「おっ! お前たち、全生徒から公認済みの喧嘩ップルと違って、僕らはセンサイなのっ!!」
「……あんま変わんないわよね?」
「ですねぇ」
いつのまにか渋田の横には、どこから湧いて出たのか(失礼)咲都子の姿もあって、呆れたような顔つきで一緒にうなずきあっている。おい、うんうん、じゃない。お前らとは違うだろ。
君らみたいな、超過激なドツキ漫才と一緒にすん――。
あ、あれ?
一概に否定できない気がしてきたぞ……!?
そんな、今まさに照れ隠しの必殺の一撃を純美子が、しゃき! と構えたところで、五十嵐君と水無月さんが仲睦まじく登校してきた。そして、僕らを見るなり、急ぎ足で近づいてくる。
「いいところに。古ノ森リーダー、この前お話していたものが完成したので、お見せしたいと」
「う、うおっ!? ……ナ、ナイスタイミングだ、ハカセ」
僕は脇腹に迫りくる可憐で清楚な指先をやさしく受け止めながらこたえた。
が、僕以外にはさっぱりわからない会話だろう。
「お話していたもの、ってなんなのさ、モリケン? ハカセ?」
「そ、それは……ですね……」
僕らの代わりにこたえたのは水無月さんだ。ごそごそとカバンの中をまさぐり、目当てのものを取り出してみせた。見た目には……ごくごくフツーの銀色無地の缶ペンケースでしかない。
「こ、この子が第一号機です。中、開けますね……えいっ」
ごくり、と唾を飲む音が聴こえた。水無月さんが缶ペンケースの蓋を、ぱかり、と開けると、中には基盤と部品類が几帳面に詰め込まれていた。が、わからない者が見ればカオスの光景だ。
「も、もうおわかりですよね?」
「……わかりません」
と渋田。そりゃそうだ。
「こ、これ、トランシーバーなんですよ、えへへ……。もちろん、部員分、用意してありますから」





